第20話 これでいいのだ

囲いの中に入ると、案の定、子供たちが野兎や鼠を追いかけまわしてはいるものの、誰も捕まえられないでいる。


集団で協力して囲い込み、少しずつ追い詰めるとか、少しは頭を使いたまえよ。


もっとも、俺のように圧倒的なスピードがあれば話は別だ。


ロランは、「子供の姿をした怪異出現」事件の反省から、本気を出さず流す感じで獲物を追い詰め、取る瞬間だけ全速力を出すつもりだった。


麻袋の口を広げたまま持ち、大人ぐらいの走力で、最初に目についた野兎を追う。

他の個体より少し大きくてまるまると肥えていた。


ロランは、囲いの方に野兎を追い詰め、突如加速した。

野兎をダッシュの勢いのまま、袋の間口に合わせ、捕獲した。


まず一匹。


「おい、アキムのところの倅、速くて良く見えなかったが、一匹捕まえたようだぞ」


観戦していた大人たちから驚きの声が上がる。


「ロラン君、がんばって」


セリーヌだ。こっちに向かって手を振ってくれている。

くうう、かわいいなあ。

何で、この間のチャンス逃しちゃったんだろう。


よし、良い所見せちゃうぞ。


一匹捕まえてみてわかったが、野兎は本気を出すまでもなく捕まえることが可能なようだ。


二匹。三匹。四匹。五匹。六匹。


袋に入れては、集計係の兵士に手渡し、手渡してはまた新しい袋に別の野兎を入れる。これをひたすら繰り返す。

集計係の兵士も目の前で起こっていることが信じられないのか唖然としている。


ついでに、シモンが追いかけていた野兎もゲットだ。


「うわっ、ロラン。それは僕のだぞ」


カンタンが狙っていた鼠もついでにゲット。


「くそ、あいつなんで、あんなに簡単に捕まえられるんだ」


そのうち、子供たちは獲物を追うのをやめ、ロランのことを茫然と眺め立ち尽くし始めた。泣きだす子も出てくる始末だ。


天上天下唯我独尊。

順位など必要ない。獲物もセリーヌのハートも全部、俺のものである。

ここいらでちょっと本気を見せちゃおうかな。


つぎつぎ、囲いの中の小動物を捕まえまくる。


あらかたのめぼしい獲物をつかまえ終わると、辺りは静まり返っていた。

あれほど盛り上がっていた大人たちは信じられないものを見たという感じで、静まり返っていた。


やばい。やりすぎた。

なんで、いつも俺は調子にのりすぎてしまうんだ。

作文褒められただけで小説家を目指すとか、いつも極端なんだよな。

みんな、ドン引きじゃないっすか。


「あれ、なんか思ったよりかんたんだったなぁ」


子供っぽくとぼけてみるが、みんなの沈黙は続く。


「ええと、あれだ。その、獲物もいなくなったようであるし、子供の部は終了とする」


我に返った代官の声で「追い出し子供の部」は、終わった。


一位の褒賞は、当然のようにロランだった。

捕まえた獲物の数は、野兎三十四匹、野鼠八匹、蛇五匹、ホウロウ鳥二匹。

集められた袋の中で、獲物たちはもぞもぞ動いている。

このような光景を大人たちは長い「追い出し」の歴史でも見たことがないらしく、ざわめきが収まらない。


勝利の余韻に浸るはずが、どこか後ろめたくなってしまったのはなぜだろう。


二位以下は無しだった。

子供たちは一様に俯き、つまらなそうにしている。

中には涙を流して悔しがっている子もいたが、そっちの方は見ないことにする。


本来は、子供たちが獲物を追いかけまわし疲れたところを幸運な子供が捕まえ、家族と喜び合う行事だったそうだが、俺が調子にのりすぎたせいで変な空気になってしまった。


まあ、過ぎてしまったことは仕方がない。


尊敬する今は亡き、某大御所漫画家の言葉を借りて、開き直るしかない。


これでいいのだ。







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