第21話 中の人は中年のおっさんなんだ

『追い出し』が終わると、忙しい『かっぱぎ』が始まる。


『かっぱぎ』というのは、諸説あるらしいが「活剥ぎ」からきていると父アキムが言っていた。仕留めた獲物の鮮度が落ちる前に、血抜きをし、毛皮を剥ぎ取り、肉の解体を済ませる。その後、塩漬けにしたり、夜の収穫祭のふるまい料理として出されたりする。


今年は大人の部も子供の部も大猟過ぎたので、代官たちや隣村の者たちも手伝い、総出での作業に追われた。

急がなければ夜の収穫祭に間に合わなくなる。

根が素朴で単純な村民たちである。そうして忙しくしていると、子供の部で起きた異常事態など忘れてしまったかのように、皆楽しそうにしている。

なんだかんだで冬の非常食が増えるのは好ましいことであるし、近くの地域から集まってくれた参加者にも土産を持たせてやることができる。


常識外の活躍を目の当たりにし、動揺していた大人たちも次第に冷静さを取り戻したのか、それとも強引に自らを納得させたのかわからないが、ロランを見ると「さっきは凄かったな」とか「足がものすごく速いのね」などと声をかけてくれるようになった。

子供たちも「追い出し」のことなど忘れたかのように、それぞれ違う遊びに興じ始めていた。


ただ、ロランを見る彼らの目に微かにではあるが怪しむ様な、恐れの色が浮かぶようになったのは気のせいだろうか。


そうした平静を取り戻しつつある人々の中で、ロランに対して強い興味を示すようになってしまった人物がいた。

代官である。


代官は村民に混じりながら、肉の処理を手伝ってくれていたが、時折、ロランが何者かの視線を感じ、そちらの方を向くと代官と目が合うのである。

代官は気まずそうに眼をそらすが、しばらくするとまたこっちを見ているのである。


自分に関心を持ったようだが、何を考えているのかはわからない。

あの目からは悪意を感じないが、気になる。

向こうが何かしてくる前に、先手を打とうか。

スキル『カク・ヨム』で代官のプロフィールを覗きたくなる衝動を抑えていると、向こうの方から近づいて来た。


「確か君の名前はロラン君だったな。アキムの息子だろう。さきほどは大活躍だったね。長年、「追い出し」を見ているが君みたいな神童はついぞ見たことがなかったよ」


代官は少し皺の入った目じりを下げ、白髪が混じり始めた灰色の頭に手をやった。


「おじさんはね、君を見て一目で気に入ってしまったんだよ」


話の意図がわからない。

子供を見て、一目で気に入ったとはどういうことだろう。


まずい。

こいつはそっちの性癖持ちか。

たしかに高橋文明の時とは違って、アンナ譲りの整った顔立ちをしているが、そういう対象として見られても困る。

すまない。

申し訳ないけど俺は女性にしか興味ないし、中の人は「中年のおっさん」なんだ。


「あっ、お母さんに用事頼まれてたんだ。ぼく、行かなくちゃ。おじさん、またね」


ロランは後ろを振り返ることなく、一目散に逃げだした。





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