第19話 子供の部、はじめ!

代官の「それまで!」の合図で、皆一斉に狩りをやめた。

獲物の数の集計と順位決めが始まる。


「一位褒賞はヨサック。次点はアキムだ」


代官の部下の発表に一同が沸き立つ。

獲物の数はアキムの方が上だったが、大物を仕留めた数の差でヨサックに軍配が上がったようだった。

ヨサックの大ぶりの斧による一撃は、当たりさえすれば、魔物の強靭な肉体であっても両断されてしまうようで、まさに鬼神の如き無双ぶりだった。

その後、五位までの入賞者が次々名前を呼ばれたが、代官の配下の者たちだった。


褒賞の授与式は、夜の収穫祭に行われるので、何がもらえるかはわからないが、父アキムは二位だったので楽しみだ。


ヨサックさんも家族を失った悲しみで酒浸りになり、かなり衰えていたようだが、弱っていた能力値を『筋力:9→39』、『体力:4→34』に書き換えた影響か、別人のように元気だ。

というより別人である。

筋肉は壮年とは思えないほどに膨れ上がり、張りがある。

ボディビルの大会なら、「キレてる。大きい」とたくさん掛け声が上がったことだろう。

引きずっていた足も今は、何ともないようだ。


「それにしてもヨサックよ。お主のような豪傑は国広しといえどもそうはおるまい。ただの農民にしておくのは惜しいほどだ。野魔猪ワイルドボアを斧で真っ二つにするなど人間業ではない。あと、アキムといったな。その方もただ者ではないな。二人とも我が配下に欲しいくらいだぞ」


代官は興奮した様子で二人を褒め称えた。


男達が魔物や大きな獲物をあらかた狩りつくした後は、子供による競争も行われる。

囲い込みのための柵の下部は木板で覆われており、入り口も塞がれているので、危険が少ない野兎や鼠などの作物を食い荒らす可能性のある小動物が囲いの中にまだ残っている。それを手づかみで袋に入れ、その数を競うのだ。


もっともそれらの小動物はすばしっこく、一匹でも捕まえられたら入賞できる感じなので、子供たちの悪戦苦闘する姿を楽しむ大人たちの余興であるらしかった。


ロランたち兄弟も近隣の村々から集まってきた子供たちと一緒に参加することになった。

大きな麻袋のようなものを持ち、入り口に並ぶ。


「ロラン、俺はお前の倍は獲物をとるぞ。御褒美をもらってもお前にはちょっともあげないからな」


三男のシモンが舌を出し、意地悪そうな顔で挑発してくる。

次男のカンタンも同様な発言をし、長男のマルタンはあきれた様子で二人を注意する。


「それでは、子供の部、はじめ!」


代官の配下の掛け声で入り口のゲートが開けられる。

子供たちが一斉に、大騒ぎをしながら囲いの中に殺到する。


ロランはその様子を眺めながら、ゆっくり後に続く。


無駄無駄ァ。シモンたちには悪いが、猿が人に勝てないように、人類を超越したこの高橋文明ことロランの敵ではないのだよ。


君たちには俺の引き立て役になってもらおう。

  

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