第18話 追い出し

毎日一人ずつ地道に『カク・ヨム』で改稿を続けて、ウソンの村の住民のほとんどを改稿してしまった。

村長を「言いなり状態」にできなかったのはかなり残念だったが、いかに村長といえども一人では何もできない。

ロランは、村長モーリスのプロフィールを読み、我が家に対して何か嫌がらせをしてくるのではないかと危機感を抱いていた。

嫌がらせがくる前に、村長の座をモーリスからアキムに移すことができれば、心配はなくなるし、我が家の生活水準も豊かになること間違いなしだ。


俺には今、それを成し遂げるだけの力がある。

スキル『カク・ヨム』によって、この村はロランの支配下に置かれているといってもいい状態になったのだ。


近いうちに何らかの手段で父アキムを村長にして、ウハウハ成り上がりライフの第一歩にするつもりだ。


この高橋文明、いやロランはこの小さな村で終わる気は毛頭ない。

このウソン村の支配を足掛かりに天下にその名を轟かすのだ。


今や、村人のほとんどは『プロフィール・リライト』によって、ロランの頼みを断れない、言いなりの状態になっていた。

ロランはお腹がすくと他人の家でご飯を食べさせてもらったり、おやつをもらうようになっていた。

他にも思いつくままに、様々な頼みごとを村民たちにして、自分や家族が得をするように立ち回った。

こうなるとさすがにウソン村やロランの日常生活にも目に見える変化が出てきてしまうが、村民たちは何が原因かわからないので、深く考えることもなく、そういうものだと各々自分なりの解釈で受け入れているようだった。


「いやあ、ヨサックの奴、最近どうしちゃったんだべか。まるで人が違ったみたいに元気でねえか」


「いや、若い時に戻っただけだべ。あいつはもともとは村一番の暴れ者で手が付けられんかった。見ろ、また一匹狩っちまったぞ。代官のところの兵士がまるで相手にならねえ」


「こりゃ、今年の褒賞はヨサックか、アキムに決まりだべ。嫁さん身重だって聞いたから、アキムの奴も張り切ってやがるな。あいつは本当に疲れ知らずだ」


今日は年に一度の収穫祭だが、午前中は『追い出し』と呼ばれる毎年恒例の行事が行われる。

『追い出し』とは、その名の通り農地周辺の森から魔物や害獣となる野生動物を追い出し、出てきた獲物を狩り、その成果を競うという、村古くから伝わる伝統行事である。

ヨモギムという燃やすと魔物が嫌がる匂いと煙を出す木の枝を一年かけて集めて乾燥させておき、これを森の中で焚いて村の「狩り場」と呼ばれる開けた原野を柵で囲い込んだ場所に獲物を追い出すのだ。

その追い出された獲物を村の若い男衆や代官の手下の兵士、近隣の村々からの参加者が武器や道具を手に追い回し、捕えた獲物の数と大きさで順位を競う。ちなみに参加資格などは何もなく、自己責任かつ自由参加である。

上位五名に入った者は、近隣の農地を任されている代官から直々に褒賞と名誉を与えられ、夜の収穫祭では狩神が宿った者として主賓の扱いを受けるらしい。

ちなみに行事で捕まえた獲物は、塩漬けにしたり干し肉にしたりして、冬の備蓄食料になる。


この狩神月は、多くの害獣や魔物の繁殖期になっており、これを毎年行うことで、翌年の農作物の被害や魔物による犠牲者を減らくことができるという先祖代々の知恵だ。

魔物といっても時折、野魔猪ワイルドボア小鬼ゴブリンが紛れてでてくる程度なので油断しなければ、農地代官の武装した兵士たちもいるので、村人たちでもなんとかなる。


「お父さん、がんばれ」


ロランも他の村民たち同様、地面に枯れ草を編んで作った敷物を広げ、家族と並んで父アキムを応援していた。

村中の人間が、同じように家族単位でまとまり、酒を飲んだり、弁当を食べたりしながら「追い出し」の競争を観戦している。


少し離れた一番良い場所に代官たちと並んで、村長一家も陣取っている。

セリーヌもいた。

あの厄介な村長モーリスの傍らで代官たちや家の者たちに料理を配っている。


くうう、やっぱり美人だ。

ためらわずにファーストキッスをズキュウウウンと決めておくべきだったかもしれない。




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