第17話 手強い相手だったぜ

『スキル≪カク・ヨム≫の創作タイムが始まります。5分以内で村長モーリスを改稿してください。改稿が終わったら、公開ボタンを押してください』


一瞬、筋力と体力の数値を1か0に書き換える実験を行う恐ろしい考えが浮かんでしまったが、セリーヌが悲しむ顔は見たくなかったのでやめた。

そんな考えが思いついてしまった自分を一瞬恐ろしく感じたが、もし自分の生命に危険が訪れた際には他者への攻撃手段として使えるかもしれないとも思った。


あのインチキ司祭のニコラを切り抜けた時のように『プロフィール・リライト』を使うことにした。


≪直近のプロフィール(改稿前)≫

ウソンの村長。加齢による衰えと村内の影響力低下を気にしており、最近村で中心になりつつあるアキムに村長の座を奪われるのではないかと心配している。

過去、勧めた縁談をアキムに断られ、顔をつぶされたことを今でも根に持っており、いつかそのときのお返しをしてやろうと思っていた。

そして、今、目の前に現れたアキムの倅、ロランを使って嫌がらせをしてやろうと思いついた。



『プロフィール・リライト』においては、書く文字と消す文字の合計が30文字以内という制約があるので、消す文字をできるだけなくして、文末に加筆する方が使える文字数の面から効率が良い。


他の村民たちに書き込んだように、プロフィールの文末に『ロランが大好き。ロランの言うことは何でも聞いてしまう』と書き込み、≪公開≫ボタンを押した。

謎の読者の支持は受けられないようだがこの方法が便利だ。


『現実世界と大きく矛盾し整合性がとれません。改稿をやり直してください』


目の前にエラーメッセージを告げる半透明のボードが現れる。


あれ? なんで?

現実世界と大きく矛盾?

たしかに既存の文章と加筆部分はまったく脈絡がない。


どうやらプロフィールの文章に書かれてある父アキムやロランに対する悪感情が、加筆部分と矛盾して文章がおかしくなるのが原因かもしれない。


残り時間を見ると三分台に突入してしまっていた。

まずい。時間をロスしてしまった。


『ロランが大好き』部分を削り、『ロランの言うことは何でも聞いてしまう』だけにして≪公開≫ボタンを押す。


『現実世界と大きく矛盾し整合性がとれません。改稿をやり直してください』


だめだ。悪感情をもっていることが書かれている相手にこの方法は使えないのか。


残り二分半。

もう失敗は出来ない。

どうすれば、この場を切り抜けることができるか。


『。』を1文字消去し、『が、加齢の影響で何をするつもりだったか忘れてしまった。(27文字)』を書き加えた。



≪直近のプロフィール(改稿後)≫

ウソンの村長。加齢による衰えと村内の影響力低下を気にしており、最近村で中心になりつつあるアキムに村長の座を奪われるのではないかと心配している。

過去、勧めた縁談をアキムに断られ、顔をつぶされたことを今でも根に持っており、いつかそのときのお返しをしてやろうと思っていた。

そして、今、目の前に現れたアキムの倅、ロランを使って嫌がらせをしてやろうと思いついた


残り二十八秒。

ちょっと苦しいがこれでどうだ。

≪公開≫ボタンを押す。


『スキル≪カク・ヨム≫の創作タイムを終了します』


よし。なんとか成功。


周囲の雑音が戻り、セリーヌとモーリスが動き出す。


「はっ! はて? わしはここで何をしようとしておったんじゃ」


ロランはモーリスの言葉を聞くのと同時に、走って部屋の出口に向かった。


「セリーヌお姉さん、今日は遊んでくれてありがとう。またね」


挨拶をして、ダッシュで逃げる。


村長、手強い相手だったぜ。


ロランは冷汗を拭い、ひとまず「エロ餓鬼」レッテルが貼られることを防げたことに安堵した。

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