第6話 カク
『スキル≪カク・ヨム≫の創作タイムが始まります。5分以内で司祭ニコラを改稿してください。改稿が終わったら、公開ボタンを押してください』
再び半透明のメッセージウィンドウが現れた。
司祭ニコラのステータスボードの右上に、≪公開≫と≪ヘルプ≫のボタンも出現する。左上には時計表示が現れ、5:00からみるみる数字が減っていく。
まるでキッチンタイマーのようだ。
≪ヘルプ≫のボタンを押すと、スキル≪カク・ヨム≫の使用法が現れた。
スキル≪カク・ヨム≫熟練度Fの使用方法。
使用回数は一日に一回。
対象一人につき一年に一回。
一回の発動につき以下の①、②、③のうち一つだけ使うことができる。
①プロフィール・リライト
書く文字と消す文字の合計が30文字以内ならプロフィール欄を書き直すことができる。ただし、現実世界と大きく矛盾し整合性がとれない内容は書き込むことができない。
②ステータス・リライト
書きこむ数字と消す数字の合計が2文字以内であれば能力値を書き直すことができる。
③スキル・リライト
書く文字と消す文字の合計が2文字以内であればスキル名を書き直すことができる。ただし、現実として存在しないスキル名にすることは出来ない。
また、書き直せるのは1回に付き1スキルまでである。
なるほど、読んで、書き込むから『カク・ヨム』なのか。
でも、それなら『ヨム・カク』でいいんじゃないか。
それともほかに何か意味があるのかな。
まあ、どうでもいいか。
能力の把握に時間を取られ過ぎた。
とれあえずわけわからん奴に売られるのは避けたいから、『プロフィール・リライト』を使ってみる。
現実世界と大きく矛盾してはいけないようだが、小さく矛盾している程度にはオーケーだと読むこともできる。
まあ、案ずるより産むが易し。トライ、アンド、エラーだ。
直近プロフィールが拡大され、目の前に半透明のキーボードが浮かび上がる。
≪直近のプロフィール(元原稿)≫
王族、貴族のスキル囲い込みに協力し、貴重で有能なスキルを所持する少年少女を高額の報酬を対価に引き渡して財を蓄えている。
目の前に『カク・ヨム』という未知のスキルを持った少年ロランが現れ、喜んでいる。
末尾の『る。』を消して2文字、これに28文字の文章を書き加える。
これでどうだ。
六年間も創作から遠ざかっていたがこれくらいは問題ない。
≪直近のプロフィール(改稿後)≫
王族、貴族のスキル囲い込みに協力し、貴重で有能なスキルを所持する少年少女を高額の報酬を対価に引き渡して財を蓄えている。
目の前に『カク・ヨム』という未知のスキルを持った少年ロランが現れ、喜んでいたが、ただの読み書きできるスキルだと思い込んで失望した。
これで良しと。
十五秒残して完了。
右上にある≪公開≫ボタンを押した。
『スキル≪カク・ヨム≫の創作タイムを終了します』
周りの風景が一瞬歪み、そして元に戻る。
「はっ、私は何を」
先ほどまで硬直していた司祭ニコラは動き出し、顔を手に当てて茫然としている。
「司祭様、大丈夫ですか。僕、そろそろ帰ってもいいかな。あとお土産にお菓子持っていってもいいですか」
「ああ、ロラン君。お父さんが心配しているといけない。はやく帰りなさい。あとね、このお菓子は君のような蛆虫が食べれるようなものじゃあないんだよ」
ニコラは興味を失った目で、こちらを見ている。
怒っているのか、聖職者特有のニコニコした作り笑いも今はしていない。
その顔は無表情で、何を考えているか想像するのも怖い。
妙なことを言い出す前に退散退散。
「ごめんなさい、司祭様。僕、帰ります」
慌てて、扉を開け、部屋を出た。
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