第5話 ヨム

スキル『カク・ヨム』とはどんなスキルか。


司祭をはじめ、その場にいたすべての人々は驚き、そして困惑した様子だった。

スキル授与の際に放つ光が強ければ強いほど希少で、有用であることが多いのだと父から聞いていたので期待はできる気がする。

何せ、あれほどの光だ。絶対チートスキルに違いない。


「皆のもの、静まれ。本日のスキル授与はこれを最後に終了とする。申し訳ないが他の子たちは明日、日を改めて来てほしい。ロラン君は私についてきなさい。保護者の方はしばらくの間、ここでお待ちいただきたい」


父アキムをその場に残したまま、司祭に案内され、奥の個室に向かった。

部屋の中は聖職者にそぐわない豪華なつくりになっており、たくさんの美術品が置かれていた。

やっぱり聖職者っていつの時代も儲かるんだな。


司祭はロランを三人掛けの長椅子に座らせると、良い香りがするお茶と高そうなお菓子を出してくれた。

司祭はロランの隣に腰かけ肩を抱き、お菓子を食べるように勧めた。


さっそくお菓子を手に取り、噛り付く。

クッキーのような焼き菓子だった。

香ばしく、程よい甘さが口の中に広がる。

この世界に来て食べた物の中で一番うまい。

毎日、草の根や木の実などをおやつにしてたので、今まさに口の中で味覚の革命が起きている。

お茶も上品で飲みやすく、紅茶に似ていて、焼き菓子によく合う。

もう一個。もう一個。

おやつを口に運ぶ手が止まらない。


「ロラン君、早速だが君が授かった『カク・ヨム』の使い方はわかるかな」


「司祭様、わかりません」


「授かった後、身体に変化はあるかな?例えば、力が強くなったとか、目が良くなったとか何か変化はあるかな」


「司祭様、ありません」


「ふむ、ではこのテーブルに向かって手をかざし、『カク・ヨム』と唱えてみてくれるかな」


ロランは司祭の指示通り、お菓子とお茶の乗ったテーブルに向かって、手をかざし唱えた。


「カク・ヨム!」


突然、目の前に半透明の吹き出しが現れた。テレビゲームのRPGでよくあるメッセージウインドウのようなものだった。


『対象者がいません。対象者を選び直してください』


あれ? なんだこれ。

この世界の言葉ではない。日本語で書かれたメッセージだ。

対象者を選ぶということは、対人スキルなのかな?

特に深く考えずに司祭に向けて手をかざし、唱えてみる。


「カク・ヨム!」


一瞬、この世の全ての動きがゆっくりになるような不思議な感覚があった。

見ると司祭が硬直している。

時間が止まったかのように、驚いた表情のまま身じろぎひとつしない。

司祭の目の前で手を振ってみるが反応がない。

これ、元に戻るんだろうか。

冷静に考えるといきなり人体実験とか俺、何考えてんだ。爆散とかするスキルじゃなくてよかった。危うく罪人になるところだったよ。


『スキル≪カク・ヨム≫が発動しました。司祭ニコラのステータスを表示します』


名前:ニコラ

種族:人間

性別:男

職業:司祭

年齢:58歳

星:0

PV:1

ハート:0

レビュー:0

フォロワー:0


レベル:12

HP:13

MP:11

筋力:10

体力:7

器用:7

敏捷:5

知力:14

魔力:10

信仰心:2

こうげきりょく:13

ぼうぎょりょく:9

天賦スキル:詐術B

習得スキル:演技D、神聖魔法E

≪直近のプロフィール≫

カルカッソン大聖堂の司祭。

王族、貴族のスキル囲い込みに協力し、貴重で有能なスキルを所持する少年少女を高額の報酬を対価に引き渡して財を蓄えている。

目の前に『カク・ヨム』という未知のスキルを持った少年が現れ、喜んでいる。



なんだ、これ。

他人のスキルとか能力値を読むことができるスキルなのか。

何よりヤバいのは、直近のプロフィールっていうやつだ。

こいつ、完全に俺のこと貴族とかに売ろうとしてるだろ。

だいたい聖職者なのに信仰心2ってどういうことだ。

スキル見ても、インチキ宗教家そのものじゃないか。


レベルから下はだいたい想像つくけど、星、PV、ハート、レビュー、フォロワーって何だ?


PVはプロモーションビデオなわけないし、たぶんページビューだろ。


そうだとすると、これらのステータス項目は、ロールプレイングゲームというより前の人生で使っていた小説投稿サイトみたいだ。


本当にわけわからん。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る