第2話 こんな異世界転生、望んでませんよ

高橋文明は天井を見ていた。

見慣れない天井だった。自宅の作業部屋とは違う。

照明器具もついてないし、壁紙だって貼ってない。

殺風景な天井だ。しかも結構古い。

起き上がろうとしたが、自分の身体をうまく動かすことができない。

何か言おうと思っても上手くしゃべれない。


突然、大きな手が俺を持ち上げてくる。

抵抗しようと手足を動かすと自分の手が見えた。

小さい。短い。

まるで赤子の手だ。


知らない女の顔が近づいてくる。

髪は赤毛で、顔は彫りが深く、目鼻立ちがはっきりしており、整っているが、優しく柔和な表情をしていた。


女は見知らぬ言語で何かをしゃべっている。

その傍らに誰かいるのか男の声と年配の女の声が聞こえる。

しかし、何語で話しているのかわからないし、意味も全く分からない。

ただ、うれしそうな雰囲気は伝わってくる。


柔らかな布のような物で全身をくるまれると、木の格子に囲まれたベッドのようなものに入れられた。


状況からすると、俺は赤ちゃんになってしまったのか。

意識は高橋文明のまま、赤ちゃんに生まれ変わる。

異世界転生もので、よくあるお約束の展開。

レビューをもらったことはないが、俺も似たような小説を乱発したものだ。

普通は、巨乳の女神さまや白い髭の爺さんが出てきて、ほしいスキルや条件聞いてくれる流れになるはずだが、それがなかった。


テンプレ面接タイプとか、神様の手違いによる土下座お詫びタイプとか、いろいろなパターンがあるが、何も無いとはどういうことだろう。

チートスキルも生まれる先の条件も選べない異世界転生なんて、ただヤバいだけじゃないか。


赤子にとっては、一般的な異世界は過酷だ。

医療技術、文化レベル、生まれた家の境遇によっては成人まで生きるのも困難だろう。病気になっても薬がなかったり、下手すれば祈祷師とかが来て、悪霊の仕業じゃとか言い出す可能性もある。もっと貧しいと飢饉で餓死とかだって十分考えられる。


チートくれないなら、せめて王家に転生させてくれ。

百歩譲って、辺境の貴族とかでもいい。

それがお約束というもんだろう。


ゴツゴツした手の若い男が、俺のほっぺやら手足を触り始めた。


やめろ。触るな。野郎にあちこち触られて喜ぶわけがない。

俺にできるのはただ泣くことだけ。


年配の女性に何か強い語気で言われて、男はようやく触るのをやめた。







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