謎スキル『カク・ヨム』で成り上がる。卑怯とか言わないで。

高村 樹

第一章 異世界転生

第1話 小説家になりたいわけじゃなかった

ああ、そうか。俺は小説家になりたいわけじゃなかったんだな。

小説を道具にして成り上がりたいだけだった。有名になりたかった。お金が欲しかった。先生と呼ばれ、ちやほやされたかった。

有名人になって、他人がうらやましがるような美女に囲まれて、モテモテになりたかった。

ただそれだけの薄っぺらい人間だったんだ。


高橋文明は、薄れゆく意識の中で後悔していた。


子供のころの作文コンクールで入賞したことをきっかけに、自分には文才があると思い込み、小説家を目指した。

学業をおろそかにし、部活もせず、友達もろくに作らなかった。

暇さえあれば、資料集めと称し、図書室に入り浸り、駄文を書き続けた。


クラスや学校では変人扱いされたが気にも留めなかった。

創作時間を増やすために高校も中退した。

いじめが苦しかったからではない。

今に見てろ。名作を書いて、大きな賞をとりまくり、文壇の寵児になった暁には、みんな俺にひれ伏すことになるのだ。

先生、クラスメート、俺を馬鹿にした奴ら。

彼らの悔しがる顔が今から楽しみだ。

そう自分に言い聞かせて、ジャンルにこだわらず次々作品を生み出し、出版社に送り続けたが、一度も連絡は来なかった。

様々な賞にも応募したが全部駄目だった。

一次審査すら突破できない日々が続いた。

誰も俺の作品の良さを理解できない。時代が俺について来れないんだ。

三十歳を過ぎても就職せずに小説を書き続ける息子を見て、両親はとても心配したが、援助を続けてくれた。

ネット小説のブームが訪れると、相変わらず就職もせずに部屋からほとんど出ずに投稿し続けた。


焦っていた。

俺も、もう三十九歳。ここまで何も成し得てこなかった人生。

アルバイトすらしたことがなく、友人も彼女もいない。

いい年をして親に迷惑をかけ続け、すねをかじり続ける。

近所の人に陰口をたたかれ、親戚に心配される。

同級生だった奴らにも、忘れられているか、馬鹿にされていることだろう。

文才なんか、これっぽっちもなかった。

俺が目指していたのと真逆の人生になってしまった。


信じ続けてくれた両親に申し訳ない。少しでもたくさんPVを稼ぎ、家に生活費を入れてみたい。

書籍化!

コミカライズ!

アニメ化!

大声で叫びながら、自らを奮い立たせる。

限界が来るまで何日も徹夜で作品を書き続け、気絶したように眠り、そして再び創作を続ける。

食事をとると睡魔に負けるので、一日一食で運動もろくにせず、ひたすら小説を書く。


そんな不摂生や無理が祟ったのか、限界は突然来た。


胸のあたりが締め付けられるように痛む。

手足の指先が冷たく感じられ、それが体の中心に向かってくる。

呼吸が乱れ、冷汗が出る。

身体に力が入らない。


机に突っ伏したままの姿勢で、意識が遠のいていくのを感じた。


「次の人生があるなら、次はちゃんと生きよう」


それが高橋文明が最後に思ったことだった。



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