夏の日

バブみ道日丿宮組

お題:マンネリな夏 制限時間:15分

夏の日

 夏だから海、プールというのは邪道だ。

「やっぱ露天風呂で日焼けが一番だな」

「意味がわからないわ」

 文句を言いつつ旅行についてくるあたり幼馴染は馬鹿なんじゃないかってたまに思う。

「ねぇ、今なんか失礼なこと考えなかった?」

「気のせいだろ? 少し脇腹に肉がついたとかは本当のことだろ」

 寝そべってたおかげもあって、張り手が胸に思いっきり響いた。

「そ、それはあんたが毎日美味しいご飯作ってるからでしょ!」

「俺は栄養バランス考えてるつもりだけどな。あと赤ん坊のために研究もしてるし」

 そういうと幼馴染であり、婚約者はだんまりを決め込んだのかそっぽをむいた。

 そちらには青い海、青い空が見える。

「いい天気だよな。いつか生まれてくる子どもと一緒にきたいものだよ」

 そのためには俺はもっと家事マスターにならなきゃな。それだけが小さい頃からの得意技。勉強なんてものは家庭科と技術しか良い点数とれなかったくらいだ。

「でも……いいの? 親は反対してるんでしょ?」

 小さな声が聞こえた。

「既成事実はもうなってしまう。そしたら文句は言われないさ。どんな不幸な家系であっても俺は気にしない。呪われたなんてのは言いたい奴らがいえばいい」

 頭を撫でると、潤った髪の毛がさらりと指を喜ばせた。

「そう……私はあんたと一緒になれてよかった。仕事も順調にこなせて、私ができないことをあんたがやってくれて……」

 でも、と一呼吸。

「料理の腕前で勝てないのはなんか悔しい」

 やっとこちらに顔を向けてくれた彼女の瞳には青い海に負けないくらいのきれいな雫が潤ってた。

「そこまで負けたら、ほんと俺は取り柄ないただのマスコットキャラクターになっちまうからな。お互いを支え合って夫婦っていうんだろう?」

「う、うん……そうだね」

 彼女の手がゆっくりと俺の腕を掴み、やがてしっかりと指を手に絡めてきた。

「でも、さすがに夏に露天風呂ってのは暑いな」

「そりゃそうでしょ、夏なんだもの」

 はははと笑う彼女の瞳にはもう雫はない。綺麗な黄色い宝石が見えるだけ。

「マンネリ解消と計画したものの、もう少し中身を考えるべきだったな」

「そこができないのがあんたのいいところだもの」

 できないところが……か。ちょっとショックだな。

「でもね、この世の中に完璧にデキる人なんていないんだから。そりゃ私の家系にそんな人がいて街を一度宗教的に操ったのは事実だけど……人は変わるもの」

 彼女は目を閉じ、

「私はその宗教には関わらなかったし、勝手に親たちはみんな死んでったもの。残るものなんて何もない。哀しみはあったけど、乗り越えなきゃ進めないもの」

 その側にずっと居続られて俺は幸せだったかもしれない。

「これからはもっと幸せなこと、辛いことももっとあるかもな」

「それは喧嘩したいっていうこと?」


 はははと俺は笑って先に露天風呂から逃げ出した。怒った彼女は後から怒鳴り声を響きかせながらこちらへときた。

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夏の日 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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