和菓子屋「花みや」への訪問②

「花宮さんは茶道部なの?」

 抹茶の前に出されたお菓子の「さくらもなか」を食べながら、無量くんはアユちゃんに聞いていた。


「そうなんだ。ボードゲーム部に行きたかったんだけど、茶道部期待のエースだって勧誘はなはだしくてさ」


 アユちゃんはかわいいため息。

 慣れた手つきでお茶をかしゃかしゃと茶せんでたてて、無量くんに渡してる。無量くんも結構手つきが慣れてる。

 なんか、優雅。なんか、絵になる。


「へえー。もしかして、無量くんも、お茶会、初めてじゃないとか?」

 アユちゃんも若干驚いてる。


「うん。うちのお母さんの知り合いに抹茶好きが多いから、時々、こういうお招きは実はあるんだよ」

「そうなんだー。なんか、育ちいいね。王子様って感じ!」

「そんなじゃないよ。全然」


 ふたりはすごく楽しそうだった。わたしは下を向いてた。すると、視界の端に、なにか黒い影が横切った。

 え? なに? 黒い虫とか、嫌なんですけれど。


 内心、めげてたけれど、アユちゃんにはもちろん言えない。そのまま、流れで、お抹茶をわたしもたててもらった。


 お作法なんて知らないし。なんか、居心地、わる。

 お抹茶は苦味があって、お茶碗を何回回せばいいのか、なんてことも全然わからない。

 お菓子はおいしかったけれど。


 はああ、とため息をついていると、アユちゃんが心配そうにわたしを見てた。


 帰り道、無量くんと別れた後に、

「わたしってほんと、ダメだなあ」と独り言を言ってしまう。


「ダメなんかじゃないにゃ」

 小さな声がした。わたしの制服のポケットががさがさと動く。あわててポケットを探ると、確かに生きてる感触がした。

 ポケットから、その小さな柔らかな存在を取り出して、手のひらの上に乗せてみる。

 さっきの黒い影って、これ? 


「こんちは。ミヤにゃむ」

 猫耳の、小さな小人さん。赤い髪をしてるように見える。


「ミヤは今日、生まれたにゃむ。生物部の男子たちには内緒にゃむ。桃子の味方だからね」

 小さな小人さんはそんなことをわたしに言った。

 

 わたしは不思議なことへの耐性がついたのね。

 驚きはしなかったよ。

 心が温まるような、でも、ちょっと不安なような。


✳︎ ✳︎ ✳︎

 その日の夜、わたしは「初潮」を迎えた。

 初めてのことばかり。お姉ちゃんが翌朝、気づいてくれて、「お赤飯炊かないとね」って言ってくれた。

 嬉しいことなのかな。よくわからなかった。

 ミヤは、わたしのベッド脇の宝石箱の中に隠しておいた。そこが気に入ったみたいで、わたしが学校に行く時もムニムニ寝言を言いながら眠っていた。

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