黒髪が綺麗な、お姫様みたいな人

 四月下旬の朝、北星神社に行く途中にぺこりと鳥居の方にお辞儀をしていると、見覚えのある女の人が前から歩いてきた。


 最近よく会う人なのだけれど。わたしは、この人の年齢がどうしてもわからなかった。制服を着ていたら高校生と思うところなのだけれど。

 でも、わたしのお姉ちゃんより年上の人のような印象も受けた。

 長い黒髪が綺麗で、昔のお姫様みたいな。

 そして、この人はいつも黒いワンピースを着ていた。レースがついてるような服。着る人をすごく選ぶ服。その服がぴたりとはまっていた。

 黒い服に、日傘だけが白色かベージュだった。色白で、どこか人間離れした人だった。


「いいお日様ね」


 女の人は、毎朝、わたしに声をかけてくれていた。わたしはすっかり心を許していて、最近では一緒に何分か歩いていた。中学校での濱本リアナさんへの愚痴までも、この人に聴いてもらっていた。


「昨日、びっくりしました」

 北星神社脇には水路があるけれど。その水路脇の道を並んでわたしたちは歩いている。四月は桜並木が見事な道なの。


「何?」

 女の人は面白そうに、わたしに聞く。

 その姿が誰かに似ているように感じるけれど、思い出せなかった。


「いろいろあります。わたし、宝石箱の中に」

 わたしは言おうとする。でも、中学校の濱本さんのことならともかく、小人のミヤのことなんか、とても言えないよね。


「宝石箱の中の秘密。素敵だね🎵」


 女の人は言うと、「無量は学校で、元気してる?」なんて、わたしに聞いてきた。

「無量くん? どうして?」

「息子ですから」

 女の人は笑う。「じゃあね。小学校の時より、あなたも元気だね」と続けて、ふわりと宙に舞ったの。


 そんな感じがしたの。


 でも、その途端、強い旋風が起きて。

 わたしは目をつぶってしまった。


 だから、その女の人がほんとに浮かんだかどうかはわからない。

 ただ、目を開けると、女の人の姿はどこにもなかった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る