「花みや」の「おばけ」の話①
「桃子さあ。昨日、うちの家に来た時、変わったこと、なかった? 無量くんも」
昼休みの時に、また教室の外のベランダにわたしと無量くんを呼び出したアユちゃんは、なんだか気落ちして見えた。
「なんもなかったよ。瀬田さんはなにか感じたかい」
無量くんは感じよく言うと、アユちゃんの背中をトントンとしてる。わたしの胸はずきりと痛んだ。
「わたしも、なんもない。ごめん。二人でいて!」
わたしは自分らしくもなく大きな声で言うと、ベランダから教室に戻った。
濱本さんたちがこちらを向いて笑ってた。
何かが嫌で。頭がガンガンして。
そのまま、教室を出て、トイレの個室に閉じこもる。
昼休み終了のチャイムが鳴ったのに、まだじっとしていた。
授業、さぼっちゃったな。
わたしがそろりそろりとトイレを抜け出すと、驚いたことに、アユちゃんが廊下にいた。
「待ってたんだよ。話が終わってなかったから」
アユちゃんはプリプリしていたけれど、わたしにペットボトルの冷たいお茶をくれる。
茶道部の部室なら人目につかず話せると言うので、足音を忍ばせて、三階の隅のその部室に移動した。
狭いけれど感じの良い畳の部屋なんだ。華道部と曜日がわりで使ってるとのことで、花が床の間に生けてある。
「うちの家も、黒川先輩の旅館ほどじゃないけど、古くてさ。昭和初期から建ってるの。何回か改築はしてるんだけどさ。
そんだけ築年数が長いと、出るんだよね。おばけ」
アユちゃんは、なんでもないことのように言い放つ。わたしは急にドキドキした。
家の宝石箱の中にいる、猫耳の「ミヤ」を思い出した。
「おばけって、悪さとか、するの」
平静を装って聞くけれど、喉がカラカラして痛い。ペットボトルのお茶を一口飲む。
「悪さをするかどうかは、人によるかな。取り憑いたその人の魂を吸い取って、栄養分にするって。
うちのお母さんいわく、イギリスで言うところの、家つきの妖精みたいなものじゃないかと。わたしも、よくわかんないや。お父さんとかおばあちゃんに、よその家の人を気軽に家に呼ぶなって叱られただけ。さて、桃子。戻ろうよ」
アユちゃんはどこかスッキリした表情で言う。
「具合悪くてトイレにこもってたって言えばいい。わたしはそれを探しに行ったんだからね。次の授業、英語の菊池先生だから優しいし」
「うん」
素直にうなずいた。
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