「花みや」の「おばけ」の話②

 わたしは帰宅して、宝石箱の中を覗く。ミヤはいなかった。

 あんな小さな小人。探さなきゃ。

 ベッドの枕の下や、目覚まし時計の裏など、あちこち探す。はやく、はやく探さないと、お姉ちゃんやお父さんが帰ってきちゃう。


「探さなくても、わたしはここにゃ」

 可愛らしい声が、部屋の中央からした。そこには身支度用の大きな鏡があるのだけれど。その前に、赤毛の髪に、猫耳を生やした少女がいる。わたしと同じくらいの大きさの。

 赤毛の髪が、どこか童話の「赤ずきん」を思わせた。頭巾ではないけれど。


 って。

「ミヤ?」

 たった一日前だよ。拾ったの。

 わたしが見てると、ミヤの唇が真っ赤に裂けていく。可愛らしい少女だったのに、これじゃ、口裂け女だよ。


「わたしは『何にも言えない桃子』が産んだもの。桃子の一部にゃ。古臭い和菓子屋からやーっと出られたにゃ。これからはずっと一緒にゃむ。桃子」

 

 にんまりと笑うと、ミヤはわたしの肩に、その唇でがぶりと噛みついた。


✳︎ ✳︎ ✳︎

「桃子、桃子。なに、部屋の真ん中で寝てんの。全く、だらしないよねー」

 お姉ちゃんが、夕飯の材料の入ったビニール袋を持ちながら、わたしを揺さぶっていた。


 わたしは何か、忘れてる?


 昨日、無量くんと別れた帰り、なにか、なかった? 

 なにか。


「だらしなくなんかないよ!」

 わたしは強い口調でお姉ちゃんに言う。言った後で、自分でも驚いてしまう。

 わたしにこんな声が出せたの?

 鋭いかまいたちみたいな声が。


 お姉ちゃんは「ごめんね。言いすぎた」としゅんとしてしまった。


 なに? なにかが、おかしい。

 でも、お姉ちゃんは謝ってくれた。


 その日の夕飯は湯豆腐だった。お姉ちゃんとお父さんは仲良く話してたけれど、わたしは頭が痛くて、早めに部屋に戻る。


 部屋の鏡の前に立つ。


「わたし、どうしたのかな?」

 

 少し、髪が赤く見える。


 何かを忘れてるのはわかるのに。

 





 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る