「花みや」の「おばけ」の話③

 翌朝も学校に行く。

 途中で、白い日傘を差した、黒いワンピースの女の人とすれ違った。

 向こうはわたしを知ってるみたいで、ニコニコしていたけれど。

 わたしはどういうわけか、その人のことを思い出せない。頭がまた鈍く痛んだ。

 なんとなく気になった。だから、その人を無視してしまった後に、その人がどこに行くのかを目で追っていく。

「北星神社」の社務所に消えていったようだ。


『巫女さんかな。桃子。あんな女は無視にゃ』


 誰かの声が響いて。その声に操られたように、わたしは歩き出す。


 その日一日中、わたしはどこか変だった。

 苦手なはずの数学の授業で、「この問題ならこの公式が使えます」と言って、教室のホワイトボードの前に立って、数式を解いてみせたりとか、ね。


 極めつけは、体育の授業だよね。

 苦手なはずのバスケなのに、妙に体が動くの。

 敵チームに濱本さんがいるのはわかってる。濱本さんへの「憎しみ」みたいな強い感情が湧き上がる。

 濱本さんと激しく競り合って、ボールを奪い取る。


 奪い取られた濱本さんは悔しそうな、でもちょっといいな、という目でわたしを見てるような。そんな表情。


 わたしはロングシュートを、その位置で決める!!!


「入ったよ」

「うそー。3ポイントじゃん」


 周りがわたしに近寄ってきて、ハイタッチ。

 わたしは笑いながら、ハイタッチに答える。


 これで、いいの?


『こんな感じでいいにゃ? 桃子の夢だったにゃむ』


 誰かの声が聞こえてくる。


「瀬田さん、意外とやるんだね」


 敵チームのはずの濱本さんが、わたしの肩をぽん、と叩いた。

 戦いは後半戦にさしかかる。


 濱本さんもわたしも一歩も引かない。


 試合は結局、引き分けだった。

 濱本さんはバスケ部なんだから、わたしなんかがこんなふうに競れるはずなんてない。


 パチパチパチ、と、無量くんが拍手してる。無量くんは、この間の「妖怪との戦い」で右手を痛めてるということで、みんなには理由を隠して、今日は見学だったの。

「意外とやるんだね」

 

 濱本さんと同じことを言って、無量くんは、ばん、とわたしの肩を叩いた。さっきの濱本さんのボディタッチとはまた違う。男子が男子にする、みたいなタッチ。


「ありがとう。無量くん」


 わたしは無量くんの目をまっすぐ見て、微笑む。

 無量くんはちょっとどきりとした表情で、気まずそうに目をそらす。


「なんか、髪の毛、赤いんだね」

 なんて言いながら、歩いていってしまった。

 わなしは自分の髪の毛に目をやる。確かに。昨日もそう思ったけれど。若干、色が赤みがかって見えたんだ。


 わたしも咲良お姉ちゃんも、お母さん譲りの黒髪なのに。


 体育館の向こうをふと見ると、スバル先輩と黒川部長が、険しい表情で、わたしを見ていた。




 

 


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