2章 「花みや」の小人

和菓子屋「花みや」への訪問①

「桃子。無量くんと仲良いよね」

 放課後の雑談の時間に、わたしはアユちゃんに、教室のベランダに呼び出された。

 アユちゃんは頬をピンク色に染めて、言ったんだ。今日、「お茶会」をするから、わたしと無量くんで来て欲しいって。


 内心、困ったなあ、と思った。

 だって、生物部に入ってからまだ「一週間」なんだもの。無量くんと仲良いなんて誤解だよ。そんなに話してないもの。

「妖怪退治」を活動指針にする不思議な部活だし。


 部長の黒川先輩は部室にいることが多くて、わたしに野菜の水やり、ビオトープのお手入れなどの「生物部らしい仕事」をくれたよ。

 

 無量くんとスバル先輩はその間もずっと、近隣のどこかに「妖怪退治」に行っていた。

 二人はよほど、その「仕事」が性に合うのかな。すごく仲良さそうで、楽しそうだった。

 

 ちょっと孤独感や疎外感を覚えてたのは内緒の話。


「無量くん。あのね」

 ベランダから教室内に戻って、彼の前に立つ。つっかえつっかえ、アユちゃんに「お茶会」に誘われたことを話した。無量くんはふんわりと笑う。

「花宮さんがお茶をたててくれるなんて、いいね。せっかくの機会だし、行ってみようかな」なんて言ってくれた。

 

 少し意外。無量くんって、意外と話しやすい? 

 アユちゃんの家は商店街の中にある。昔ながらの通りを三人で歩いた。魚の干物屋さんやお蕎麦屋さんがある。シャッターをおろしてる店もところどころあるけれど、この星野森町の中では「繁華街」。

 

 途中に、黒川旅館を見かけた。黒川先輩のおうち。立派な外観の旅館だった。

「ここは、明治時代創業なんだよ」

 アユちゃんが教えてくれた。

 アユちゃんのおうちはそのすぐ先の路地にあった。住居を兼ねた店舗だった。

「花みや」と暖簾が下がっている。


「いらっしゃい。あら。アユ、用意できてるよ」

 イギリス人だという、アユちゃんのママが割烹着姿で挨拶してくれた。

  

 わたしたちは店の奥に案内される。

 そこは小さな茶室になっていた。


「正座とかしなくていいよ。足つるから」

 アユちゃんはさらりと言うと、手際よくお茶の準備を始めてる。


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