初めての部活見学、生物部④

 その後、和やかに四人でお茶をしたり、トランプをしたりした。

 中庭も少しだけ散歩した。


 中学校の中庭は、実を言うと入学式の日からずっとお気に入りだった。何度か、中庭のベンチに座って、家から持ってきた手帳で書き物をしてた時がある。


 わたしは物語作家になりたかったんだ。

 その夢を誰にも言ったことはなくて。

 でも、中庭の木々は、不思議とわたしの夢を応援してくれているような気がしてた。


 木々と話せる、なんて感覚を普通の人は持たないのかな。

 わたしは部活見学初日のこの日、無量くんたちと歩きながら、中庭の木の幹に触れて、そこに確かに流れる水の音をきいた。


 そうすると、木とお話ししてる気持ちになれるの。

 小さい頃は、よくこうやって、「木とおしゃべり」してた気がする。

 やがて五時を告げるチャイムが鳴り、部活の時間はおしまいになった。


⭐︎ ⭐︎ ⭐︎

 「ただいまー」

 と声をかけて家の中に入る。お姉ちゃんが珍しく、この時間から家にいた。


「あれ? 大学は?」


「今日、五限が休講になったんだよー。先生が熱出したってさ」


 お姉ちゃんはおまんじゅうを食べながら、モゴモゴと言った。


「食べながら話すとこぼれるよ!」


 わたしはお姉ちゃんに言う。けれど、本当に言いたいことは他にあった。


「桃子はお母さんに似てるよね。そんな言い方すると特に思う。わたしは残念なことに、お父さん似なのね。ほら、血液型もお父さんと同じでしょ」


 お姉ちゃんは少しさびしそうだった。

 この間から感じてた。わたしが「お母さんの夢を見た」なんてお姉ちゃんに言ってしまったから。


 お姉ちゃんだってたくさん我慢してた。いつも元気で明るくて、ご飯まで作ってくれる。ずっと負担ばかりかけてた。


 お姉ちゃんには、「変わった部活」のことなんかとても話せない!!!


 わたしは自分の部屋に入ると、ドアを閉める。一緒の部屋のお姉ちゃんが入ってこないよう、ドアに鍵までかけた。


 使ってなかった青い日記帳のページを開く。



 お父さんがわたしたち姉妹に教えてくれたことがある。


「わからない問題が出てきたら、まず紙に書き出してごらん。それから、人に話したり、自分で解決してごらん」

 って。


 お父さんの教えを実践する時が来たんだな。



 



 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る