お母さんの幽霊、現る②

 不思議な印を結んだとたん、わたしの体がふわりと浮かんだみたいに感じた。ううん、実際に浮かんだわけじゃないの。ジェットコースターに乗った時みたいな感じかな。


 そして、わたしの体が水色に輝いてる。


「『力』を集中して、右手を前に出して。人差し指と親指で輪っかをつくる。こんなふうに」


 お母さんに言われながら、わたしは思う。

 そうか、これ、夢なんだな。


 夢の中なら、お母さんの幽霊だって出てくる。わたしが超能力を使えても不思議じゃない。


 そう。夢なんだから。


 

 身体中が熱くなる。わたしの身体の水色の光がどんどん空にのぼる。まるで龍みたいな形をつくる。


 白龍。


 その龍は海面向かってゆっくりと下がっていく。無量くんがこちらを見てる。驚きの目で見てる。


 変な夢だけれど、いい感じだよね。


 わたしはほほえむしかない。

 そう、夢なんだから、白龍が現れたって当たり前だよね。


 白龍は海面スレスレを飛び、無数のまぶしい光へと変わった。

「船幽霊」が一気に消えたのを、なぜか、肌で実感する。


 意識が遠くなる。



 どこかで目覚まし時計の音が鳴ってる。


 朝だ。スズメがピチュピチュ鳴いていて、お姉ちゃんがご飯の支度をしている。


「桃子、昨日、ベッドにいなかったでしょう」


 お姉ちゃんが何か、気になることを言った。


「夢見てたよ。お母さんが出てきた」


 わたしはにっこり笑って、お姉ちゃんに言う。お姉ちゃんは少しさびしそうに笑うと、


「わたしももしかしたら、昨夜の夢で、お母さん見たかな。『桃ちゃんを守ってあげて』って言ってたよ」


 と言って、オムレツを焼き始めた。


 チーズ入りのオムレツはお姉ちゃんの得意料理。

 お父さんはいつも、朝食には納豆をつける。

 

 静岡特産のわさび漬けも欠かせない。

 海の幸のアジの干物も欠かせない。


 お腹いっぱい食べて、「あー。濱本さんと同じクラスなのか」とユーウツだけれども。

 

 それはそれ。足取り軽く、中学校に行く。近所のおばさんがあいさつしてくれる。

 まぶしいひなたの道を歩き出す。静岡県は坂道が多く、せまい道もあちこちにある。ビュンと飛ばしてくる車に注意しながら、自然豊かな中を通学するんだ。




⭐︎ ⭐︎ ⭐︎

「無量。お前の言ったとおりだな。間違いない。あの子が『水の巫女姫』だ」

 遠くで三人男子中学生が桃子を見てる。男子中学生は、ひとりが野球部員みたいな坊主頭。その男子が静かに言った。

 ひとりが伊月無量くん。桃子をじっと見てた。


 もうひとりが、栗色の髪のイケメン。いかにも女の子にモテそうな容姿。自信に満ちあふれたようなその姿。

 桃子が遠くに行ってしまうと、三人の姿は、かき消すようにその場から消えた。

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