お母さんの幽霊、現る①
2
その日は早く寝た。けれど、夜中の一時ごろだった。
水が無性に飲みたくなって、わたしは起き出した。また、なにか夢を見ていたように思う。
二階から一階に、足音を立てないように降りる。
二リットル入りのペットボトルを開けた。そう、まだふたを開けてなかったペットボトル。それを、ピンクのうさぎさんのキャラクターのついたコップに何度もついで、飲んでしまう。
おおよそ、半分くらいまで、ペットボトルは減ってしまった。さすがに飲み過ぎでしょう。
夜の台所は真っ暗。電気くらいつければよかった。
その暗がりに、誰か立ってる。
「咲良お姉ちゃん?」
びっくりさせようとして、そんなところにいるの?
わたしはおそるおそる、人影に近づいた。
その途端、あたりの風景が歪む。
わたしの周りに「水風船」みたいに、水が漂ってる。そんな中、わたしの手を握っていたのは、亡くなったはずのお母さん。
温かな手の感触と、懐かしいにおいがした。ひだまりみたいな、お布団みたいな、お母さんのにおいだ。
でも、お母さんは水色の巫女装束を着ている。
「戦いよ」
お母さんはきびしい目をして、わたしに言う。
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
気がつくと、わたしは真夜中の船着場にいたの。
ひとけなんて当然ない。だって、今は夜中の一時。ただでさえ不気味なのに。
黒々とした海からは、無数の白っぽい腕が出ているのだ。おいでおいでをしているように見える。
「あれ、何?」
ものすごくこわくて、わたしはもちろん、後ずさる。
その時、ピンクの稲妻が走った。この光。
無数の白い腕が、少しだけ消える。
戦いだった。昼間のあの男子。伊月無量くんと、その腕の化け物との。
無量くんは剣を持ってる。紅色にかがやくその剣はとても美しい。剣が光を産む。また産む。だけど、腕はまた水から生えてくる。
「あれは『船幽霊』よ。この世に残ってしまった、亡くなった人の思いが水と反応してできるもの」
わたしのとなりにお母さんがいた。
お母さん。とってもなつかしい。わたしが八歳の時に交通事故で亡くなったのに、どういうわけか、ここにいる。
でも、お母さんはいま、これまで見せたことのないきびしい目をしてわたしのことを見てる。
「桃ちゃん。あなたの力が必要なの。あの『船幽霊』には、物理攻撃や『破壊の力』が効きにくい。あの男の子はきっと、烏天狗(からすてんぐ)の血を引いてる。強い霊力の持ち主だけど、『破壊の力』を使いすぎてる。さっきからずっと戦ってる。
桃ちゃんの『浄化の力』を産んでみて。わたしが教えます。安心して」
お母さんの幽霊は、両手を不思議な印の形に組んだ。わたしもひとまず、真似をしてみる。
「そう、そんな感じよ」
お母さんはようやく、にっこり笑ってくれた。
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