第4話 悪戯

時刻は18時頃。

夕日が少し落ちてきた時刻に手分けして探していた二人は一度集まった。


「見つかりませんね」


「そうだな」


17時から探し初めて一時間が経つ。

そう簡単に見つかるはずはないと思っていたが、やはり見つけられなかった。

見つけるなら能力なしの方がありがたい。

が、もう使うしかないな。


「私、もう一度探しに行きます!」


「ちょ、ちょっと待て!」


動き出そうとしていた水島に蒼汰は手首を掴んで制止する。


「あ、悪い」


「いえ、どうしたんです?」


蒼汰は咄嗟に掴んでしまった水島の手首を慌てて離す。


「手掛かりを見つけたんだ」


「手掛かり、、ですか?」


「あぁ、目撃者がいてな。少しなんて言っていたか思い出すから待ってくれないか?」


「はい…わかりました」


今言ったことは全部嘘だ。

目撃者がいたのも、思い出そうとしているのも。

この時間で能力を使って犬を探す。


蒼汰は目を抑える。

しばらく会話は無く、カラスの声や車の音などが二人の耳に入っていく。

夕日は徐々に沈んでいき、それと共に周りは暗くなっていく。


「わかった。いや、思い出した。加村神社のあたりで見たって言っていた」


「だ、大丈夫ですか!!?」


「え?」


水嶋はハンカチを取り出すと蒼汰の目にそっとハンカチを持って行った。


「な、なんだ!?」


突然の行動に蒼汰は驚き、動揺したせいか、水島と距離を取る。


「目から血が出ています!!」


水嶋は再度ハンカチを蒼汰の目にやる。


「わ、悪い」


そういえばそうだった。

当たり前のように血を流してたから気付かなかったが、普通じゃないよな、これ。

あの時、周りの大人は平然と俺を見てたのに。

誰もこうやって心配してくれなかった。


「悪いな、これ癖なんだ」


「く、癖ですか!!?本当に大丈夫なんですか!?」


「あぁ、大丈夫だ。それより行こう」


胸がドキドキしてる。

別に能力を一回使ったところで胸がドキドキすることは無かったはずだ。

まさか、この俺が?

他人に心配されて胸が躍ってるとでもいうのか?

いや、さっきの反応も、ハンカチを渡してきたのもお世辞だろう。

そうに決まってる。

俺は見てきたんじゃないか。

この世界はそういう"世界"だってのを。


「ハンカチお貸ししますね」


「悪いな、じゃあ行くとするか」


夕日は落ち、月の光と街灯に照らされた道を歩んでいく。

血が滲んだハンカチの香りはとても不思議で落ち着く匂いだ。

血が収まりハンカチをポッケにしまい、山の奥へと進んでいく。


「着いたな」


手入れのされていない神社はコケまみれで、不気味な雰囲気を醸し出していた。

周りに明かりは無く、スマホの明かりを頼りに周りを照らす。

気配、視覚から誰もいないことを確認する。


「では、手分けして探し、、居ました!…」


神社に明かりを照らしていると、隅の方から鳴き声が聞こえる。

湿った足場を進んで行くと、そこには段ボールの箱と写真とは大違いの、しかし明らかに写真の犬が血だらけの状態でそこに居た。


「っ!」


水嶋は目の前の光景の異常さに口で手を押さえる。

蒼汰はゆっくりと腰を下ろして、犬に近づいて様子を伺う。

その犬の姿は明らかに虐待を受けた血まみれの姿で、瘦せ細っており、片方の耳が取れて、骨の一部が飛び出している。


「悪かったな、もっと早く見つけてやれたのに…」


小さく唸る犬に蒼汰は頭をなでる。

さっきの鳴き声も最後に振り絞った訴えだったのだろうか。

人間に怯えてか、蒼汰が撫でている間も犬は震えながら蒼汰を伺っていた。


「水島さん、どうする…」


「こんなの、、こんなの、、」


水嶋はただ呆然と立ち尽くしていた。


「水島さん、気持ちはわかるがこれが事実だ。この犬は…彼女には渡せない。

これはここ数日で出来た怪我じゃない。ずっと生きてきた環境の中で受けてきた傷だ。その証拠がこの身体を見ればわかる」


虐待を受けたというメッセージを発信しているかのように、この犬の身体には痛々しい傷が残っている。


「電話できるか、あいつに」


「すみません、私は…」


「わかった。俺が話すから…電話だけ繋いでくれ」


水嶋は携帯を開き、犬の飼い主である女子生徒に電話をかけ、蒼汰に手渡す。


『わるい、水島の携帯から掛けている。犬の件だが…』


『あ~、ん?水島さんじゃないんだ』


『悪いがあいつは出れない。それより犬の件だが…』


『あー、あれね、本気で探してた?相談は嘘だよ。まぁ私の犬に違いはないけど。あの犬、お母さんが捨てちゃったからさ』


『何で相談した』


『私、水島さん嫌いなんだ、だから悪戯したかっただけだから。あなたがいるのは誤算だったけど。あっ、あとあいつに気を付けた方が良いよ。ほんと変人だから。一年の時にあいつ…』


蒼汰は会話の途中で電話を切る。


「どう…でしたか」


「いや、もうこの犬は良いってさ」


「そうですか、、では、この子はどうすれば…」


「俺が病院に連れていく。その後も…俺に任せてくれ。無下にはしない。

絶対助ける」


「よろしくお願いします、、」


深々と頭を下げる水島だが、しばらく震えて顔を上げれずにいた。

俺は電話の内容を話すか迷ったが、伝えないことにした。

その後水島と別れた後、俺は病院ではなく家へと向かった。

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