第一項 五項 物語の始まりは暗闇と共に

 「廃(はい)亡(ぼう)の都?」

 「そう、廃亡の都。まぁそこに疑問が出たから、まずそこから説明するか。」

 「なぁ吉野、廃亡の都の説明をするなら先に世界の仕組みを説明した方がいいんじゃねぇか。」

 「そうだな、そっちから説明しよう。その方がごっちゃにならずに済みそうだ。長話になりそうだから、みんなソファーに座って。あっ、ちなみにだけど君の事を蛍って呼び捨てにしてもいいかな?」

 「えっ?あぁいいですよ・・・」

 「ありがとう。それじゃあこれからは蛍って呼ぶね。」

 

 ニコリと笑ってそう言うと、吉野はデスクの引き出しからスマホの様な薄い板状のデバイスを取り出してソファーにどっしりと座った。

三人は、吉野が座ったソファーの反対側に座った。三人が一列に座っても問題ない程にソファーは広く、そしてフカフカだった。

 

 吉野はしばらくデバイスを指で弄っていると、突然デバイスから光が出て何かを映し出した。吉野はデバイスをソファーの前にあるテーブルに置いた。

 

 「これは廃亡の都から観測出来る世界を、立体的な図で見える様にしたものだよ。蛍の世界にあるモノでわかりやすい例えだと、宇宙図みたいなモノだよ。」


 俺は改めて映し出されている画像を見てみると、確かに星の様に光るモノが見えた。しかし、宇宙図の様に無数の星が描かれている訳ではなく精々十個程度モノしか光っていなかった。

 

 「そう。蛍の世界にある宇宙図と違ってこの世界図には廃亡の都で観測出来る世界しか映し出せないから、数が少ないんだ。」

 「その世界って何なんですか?」

 「わかりやすく言うと、今いる次元とは異なる場所の事を指すかな。」

 「?」

 「あ~難しかったかな?つまりタラレバの話だよ。例えば、今僕がカレーを食べたいと思ったとする。でも今説明している僕にはそんなこと出来る訳がないでしょ?でももしかしたら、説明を取りやめてカレーを食べに行く可能性もあったかもしれない。つまり可能性があった。その可能性によって今とは違った結果を生んでいたかもしれない。蛍が誰も自分に詳しい説明をしてくれないとブチ切れて、どこかに行ってしまうとかね。それを文明レベルで捉えたモノ。一人の起こした行動でそこに住む多くの人達の価値観や生活を変えるほど出来事があった結果を捉えたモノを、それを僕達は世界と呼んでいるよ。」

 「つまり可能性の産物によって作られた世界が、この光ということですか?」

 「そういうことになるよ。本当は世界は無数に存在するんだけど、廃亡の都ではその世界が文明が発達した国レベルで大きくないと観測することが出来ないんだ。さっきの例え話で出た、カレーを食べた食べなかったの結果で得られた世界というのはあまりにも規模が小さ過ぎて観測することが出来ないんだ。」

 「はぁ・・・」


  吉野が説明していることは、あまりにも現実離していて俺は気の抜けた答えしか出来ずにいた。

 吉野の説明はまだまだ続いていく。


 「そしてこの廃亡の都は、可能性の世界を約千年もの間観測し続けている。」

 「千年!?」

 「そう千年。そして僕はここで千年、廃亡の都の管理者をやっている。」

 「!?」

 「まぁ人間の寿命で言ったらあり得ない時間を生きているからね、驚くのも無理はないと思うけど、そもそも僕は人間じゃないからね。」


 衝撃の連続だった。ここで世界と呼ばれる存在の観測を千年、一度も欠かすこともなく続けているとは。国の祭事を千年続けているならまだ話はわかるが、仕事を千年、しかもそれを自分の手で続けているとは・・・一体どんな気持ちで千年仕事を続けてきたのだろう・・・


 それに吉野は、自分が人間じゃないとはっきりと言った。じゃあ一体、吉野は何者なのだろうか。そもそも、廃亡の都を一体何を目的として活動しているのか。

 次々と疑問は溢れ出てくる。それを吉野はまるで俺の心の中を覗き見ている様に答えていく。


 「まずはその人間じゃないなら僕は一体に何者なんだという疑問から答えていこうか。蛍くんが信じるかどうかはわからないけど、僕はこの可能性の世界を作り出している存在の創造神、つまり神様から生み出された神の遣いなんだ。」

 「・・・は?」

 「うん・・・確かにその反応を正しいよ?ここにいる瑠依葉とか他の職員にも同じ説明をした時も似たような反応が返ってきたから。でもそんな、「はぁ?お前なにいってんの?頭おかしいんじゃないの?」みたな露骨な反応は示さなかったんだけどな・・・」

 

どうやら思っていたことが、顔に出ていたらしい。そのことを吉野はショックを受けているらしい。


だってしょうがないじゃないか。いきなり俺は神の遣いだ、とか言い出しても信じられる訳がない。そもそも、今まで説明してきている内容も現実味のないモノだから余計に信じられない。おまけに吉野の服装がそれを更に増長させている。


 「じゃあその神の遣いがなんでここで、アロハシャツを着て仕事をしているかって?・・・・・・創造紳から首を切られちゃったんだよ・・・仕事の態度が気にいらないからって・・・特にこの服装が・・・」

 

 創造神の元で働いている時もその服装でいたのかよ! そうツッコミたくなったが、俺はなんとか心の中に押し留めた。どうやらこの気持ちは碎と瑠依葉も同意らしい。

 

「・・・まぁ僕が神の遣いだということは、ここでは証明出来ないからとりあえず頭の片隅に置いといてもらって、次になぜ廃亡の都は可能性の世界を千年もの間、観測を続けているのかについて答えていこうか。」

 

 吉野は崩れた空気を修復するために、一度小さな咳払いをしてから話を続けた。

 

 「まず前提条件から。可能性の世界はそれぞれ独立している状態で、自分達の意思で他の世界へ干渉することは出来ない。これを頭に入れた上で話を進めるね。さっきから出てくる可能性の世界は、非常に歪(いびつ)な状態で存在しているんだ。本来は存在しなかった世界だから、少し違った要素が入ってくることだけでも大きな変化が生まれてしまう。それこそその世界の文明を大きく変えてしまうものかもしれない。その変化が時によっては、他の世界に影響を及ぼすこともある。その影響を他の世界に与えないために、規模の大きい観測できる世界を観測して場合よっては調査員を派遣して事態の確認、収拾をするために廃亡の都は千年の間、観測を続けているんだ。」

 「?さっき世界同士は独立していて干渉することは出来ないと言っていましたよね?」

 「うん。」

「じゃあなんで、廃亡の都はその他の世界を観測することが出来て尚且つ干渉することが出来るんですか?それだとしたらさっきの説明とは矛盾するじゃないですか。」

「そう。この可能性の世界では他の世界に干渉はおろか認識すら出来ない。でも廃亡の都がそれを出来ているのには、僕の能力と廃亡の都の地質にあるんだ。」


そう言うと、吉野はソファーから立ち上がり縁側の障子を開けて大きく伸びをした。


「少し休憩をしようか。まだまだ話は長くなるからお茶とか飲まないか?」

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