第一節 六項 物語の始まりは暗闇と共に

吉野は瑠依葉にお願いして、緑茶とおいしそうなおはぎを持ってきてもらった。

 「まだおはぎはありますからね。おかわりが欲しければいつでも言ってくださいね。」

 

 瑠依葉は礼儀正しく、十五歳とは思えない大人びた笑みを浮かべてそう言った。

 

 「このおはぎは、瑠依葉が収穫したもち米を一から丁寧に作り上げた絶品のおはぎなんだよ。下手な料理人が作るよりも何倍もおいしい。」


 吉野は、瑠依葉が作ったおはぎを本当においしそうに頬張りながら瑠依葉を褒めちぎった。


 「そんなに褒めても何も出ませんよ?それにいつも吉野さんが言っていることじゃないですか。」


 そう言いながらも、瑠依葉は満更でもない様子で顔を赤らめていた。

確かにこのおはぎはうまい。ジィが作ってくれた歪な形のおはぎよりも断然うまい。ここまでのレベルに持ってくるまでどれだけの努力をしたのだろうか?それにこのおはぎには、技術の高さだけで無く瑠依葉が心を込めて作ったからこそ生まれた愛情も感じられる。一つ一つの大きさが尋常でない建物を一人で管理している話といい、このおはぎといい、気遣いといい、本当に十五歳なのかと疑いたくなる程の出来栄えだった。


 「~~~っはぁ、おいしかった。ごちそうさん。」


 吉野は皿に五十個ぐらいあったおはぎをほとんど食べ切ってしまった。吉野は熱々のお茶を飲むとソファーに踏ん反り返る様にだらしなく座った。

 俺もあまりのおいしさに、吉野の四十個までとはいかないが十個は食べてしまった。


 「ご馳走様でした。おいしかったです。」

 「フフッ、お粗末さまでした。何か食べたいモノにリクエストがあったらいつでも言ってくださいね。」


 瑠依葉は控えめに、でも確かに嬉しそうな顔をした。


 「よし腹も満たされたたことだし、話の続きをするか。まずは僕の能力の話の方からだ。」


 ソファーにだらしなく座っていた吉野は、少し重たそうに体を起き上がらせて改めて俺と向き合った。

 空になった皿を片付けて、熱いお茶が入った急須を持ってきた瑠依葉がソファーに座るまで待ってから吉野は話を続けた。


 「さっきも言ったと思うけど、僕はこの世界にいる人間の動きを把握することが出来る能力を持っている。もう察しはついていると思うけど、この能力は動きを把握するだけではなくて人が心の中で思っていることを読み取ることも出来るんだ。だから、さっき蛍が思っていることに答えることが出来たんだよ。」

 「じゃあ例えば俺が今やらしいことを心の中で思っていたとしてもそれを読み取ることが出来る訳なのか?」

 「あまり読み取りたくはないけど・・・うん読み取れるよ。」

 「へぇ~すげぇ。」

 「おい全然そう思ってないだろ。」

 「あっ、バレちった。」

 「お前なぁ・・・」


 俺のふざけた発言に、吉野はうんざりしながらも反応してくれた。

 いつもの俺なら初対面の人に対してこんな冗談を言わないのだが、なぜだか吉野に対しては初めて会った感じがしなくて、つい普段は言わないような冗談を言ってしまった。


 「まぁそんな感じで、俺はこの世界にいる人間の動きを把握し、心で思っていることを読み取ることが出来る、千里眼の能力を持っているんだ。」


 吉野の目をよく見ると、目の色が金色になっていた。気づいていなかっただけかもしれないが、吉野の目はさっきまで黒色だったはずだ。じゃあ千里眼を使っている時だけ目の色が金色になるということなのだろうか。

 

 「半分正解で半分間違いだね。千里眼の能力は基本的に常に発動していて、位置の把握はこれでも出来るけど、心を読み取るには常時発動状態の千里眼ではノイズが入りすぎて読み取れないんだ。ノイズの感覚としては、ラジオの電波が合ってなくてほとんど音声が入ってない状態と同じだね。だからこれだと使い物にならないから、千里眼の力を一段階上げることによってノイズが取れて読み取ることが出来るんだ。その千里眼の力を一段階上げた時に目の色が金色になってしまうんだよ。」

 「でもさっきは目が金色にじゃなくても、読み取れてましたよね?」

 「うん。ノイズが入ってもある程度は読み取れるからね。段階を上げるのは詳しく内容を知りたい時に使うぐらいだからほとんど使うことはないんだよ。」


 吉野はそう言うと、一段階上げていた千里眼の能力を解除して目の色も元に戻った。


 「この一段階上げた状態の千里眼は結構体力を使うからあまりやりたくないんだよね。」

 「じゃあなんでやったんだよ。」

 

 ここですかさず碎が鋭いツッコミをする。


 「え? だって本気で能力を使ったら目の色が変わるとかカッコいいじゃん?」

 「そんな理由で、余程の事が無い限り使わない千里眼の能力を使ったのかよ! バカじゃないのか!?」

 「うん。それに使った方が蛍にも説明しやすかったし。」


 碎と瑠依葉は頭に手を当て、呆れかえった表情で大きな溜息を吐いた。


 「こんな感じで千里眼の能力の説明はここまで。さてと・・・」


 吉野はソファーから立ち上がり、大きく伸びをすると観測室と長室を仕切る障子に向かって歩きながら言葉を続けた。


 「この先の廃亡の都がなぜ他の世界へ観測と干渉をすることが出来るのかについては、観測室にある機械を使って説明しようか。」

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