第一節 三項 物語の始まりは暗闇と共に

瑠依葉と碎の後を歩き続けること、15分弱。

どこまで行っても障子で仕切られた部屋が続き、俺は本当に生きて帰れるのか不安に思い始めた時、長い廊下の終点が見えてきた。

それは他の部屋と同じで障子に遮られていて、外から光が零れていた。

瑠依葉が障子を開くと、目の前には朱色に彩られた柱と屋根の廊下が広がっていた。ここも日本庭園と同じ様にしっかりと手入れがされていて、最高の美しさを放っていた。

 

「おぉ・・・」


 俺はここでも、目の前の美しさに溜息(ためいき)が零れてしまう。

ここにある建物すべてがまるで、国宝級の美術品の様で現実感がまるで無い。

ここはもしかして天国なのか? ここまでこの世の物とは思えないほどの美しいモノを見せ続けられると、自分の生死を疑いたくなる。

 今の俺の顔はまるで魂が抜かれた様な顔をしていたのだろう。そんな俺の顔に気づいた瑠依葉は、心配そうに俺の方に振り返った。

 

「大丈夫ですか?体調がよろしくないのであれば、少しお休みなってからでも構いませんよ?」

「いやいや大丈夫です。あまりに綺麗過ぎて見惚れていただけですから。」

「そうですか?ならよかったです。」


 瑠依葉はそう言うと、少し顔を赤らめて前を向いた。

俺はなぜ瑠依葉がそんな顔をするのか不思議に思っていると、となりにいた碎が小声で俺に耳打ちした。

 

「ここら辺の建物の手入れは全部ねぇちゃんがやってるんだよ。だから褒められたのが嬉しいんじゃねぇかな?」

 「ここを全部瑠依葉さんが一人で!?」

 「あぁそうだ。建物の手入れを吉野から任されてるのはねぇちゃんだけだからな。

 大変だぜぇ?この世界にある建物を端から端まで歩くのに軽く一日はかかるからな。それを一人で手入れしてるから、純粋にスゲェと思うよ。」


 碎はまるで自分が褒められたかの様に、嬉しそうな顔で姉の事を話した。


 「・・・瑠依葉さんは、嫌じゃないのかな?この仕事。」

 「?ねぇちゃんは楽しんでやってるみたいだからいいんじゃねぇの?そもそも事務員の仕事をやりたいって言い始めたのは、ねぇちゃんの方みたいだし。」

 「そうか・・・そういえばさっきから出てくる事務員とか調査員ってどんな仕事なの?」

 「あ~まだ話してなかったか。それはなぁ・・・」

 「碎、やめなさい。碎に役職に関する説明をする権利は与えられていないでしょ。契約書の内容を違反した者への罰則がどんなものか、碎は忘れた訳ではないでしょ?」

 「ごめん・・・調子に乗った。」

 「わかってくれればそれでいいのよ。」

 

 碎が言おうとしている事を瑠依葉は、今までと同じ様な穏やかな口調で遮った。

しかし表情は、牢屋で碎を叱った時よりも険しいもので、冗談と言った雰囲気はまるでなかった。

碎はさっきまで意気揚々とした表情は消え、表情は完全に暗くなっていた。

どうやら俺は意図せずして、瑠依葉の地雷を碎に踏ませるように仕向けていたようだ。

 この後吉野が居る建物に辿り着くまでの間、会話が行われることはなかった。

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