第一節 二項 物語の始まりは暗闇と共に
ランプを持つ碎を先頭に石造りの廊下を進み、突き当りにある梯子(はしご)を登るとそこには圧巻なまでの満開の桜と厳かな雰囲気の日本庭園が広がっていた。
「おぉ・・・」
俺は目の前の景色に思わず溜息(ためいき)が零れてしまう。
日本庭園は、池の周りを歩きながら風景を楽しむ池(ち)泉(せん)回遊式(かいゆうしき)庭園(ていえん)の様式だった。
ライトアップされた満開の桜が池の周りに植えられていて、池と桜のコントラストはそれはもうこの世のものとは思えないほどの美しさを誇っていた。
「やっぱりお前も、この景色に見惚れるか。」
「あぁ・・・こんな綺麗な景色は初めて見たよ・・・。」
「ハハッ。そりゃよかった。その言葉、後で吉野にも言ってやんな。ゼッテェ喜ぶから。」
「この庭園の整備は、すべて吉野一人で行っているのですよ。」
「この広さの庭園をたった一人で!?」
「もちろん一日ですべてを終わらせる訳ではないですよ。何日かに分けて整備していきますからね。たまに私も手伝っていますが、ほとんどは吉野一人で行っています。」
驚きだった。この日本庭園の広さは、普通のお寺や神社にあるようなこじんまりとしたものではなく、東京ドームを丸々一個置いてもお釣りが出てくる程の広さだ。
この広さを一人で整備するなんて、吉野という人は一体どんな人間なのか? というかそもそも人間なのか? と、頭の中で悶々と考えながら俺達はまた歩き出した。
桜道を歩き、朱色の橋を何回か渡った所で奥に神社の様な建物が見えてきた。どうやら目的の部屋はあの建物の中にあるようだ。
神社の様な建物まで歩いた俺達は縁側で靴を脱ぎ中に入ると、俺はまた驚かされてしまった。
建物の中は、これまた時代劇に出てきそうな襖と障子で仕切られた部屋が見えなくなる程に長く連なっていた。
「この建物は、ここで働く人達が寝泊りする宿舎となっています。今もお休みになられている方がいますので、静かにお願いしますね。」
瑠依葉は、人差し指を口に当てて可愛らしく言った。
実際、いくつかの部屋は障子で閉ざされていて、中で寝息の様な声が聞こえてきているから確かにここは宿舎なのだろう。
そこで俺はふとある疑問が浮かんできた。
二人はジィの事を知っているようだったけど、落ち着いて考えてみれば話なんていくらでも合わせられる。それにジィの言葉も信用できない。俺がどれだけ聞いても今いる場所のことについて何も話してくれなかったし、彼らもここの事について話さなかった。
ここの事について何も話してくれない瑠依葉と碎と名乗る彼らの事を本当に信じていいのか?
俺の中で謎が深まるばかりだが、どんなに考えても他に考えが浮かばず、結局俺は彼らの後をついて行くしかなかった。
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