第一節 一項 物語の始まりは暗闇と共に
俺はさっきまで夜桜神社の本殿に居て、ジィと話している内に意識が遠くなってそこで倒れたはずだ。しかし俺の目に映るのは、見覚えの無い石で出来た天井だった。
石はコケやツタが生えて長い間使っていない様に見えた。
顔を横に向けると牢屋に使われる様な木の柵があった。
「・・・柵?」
俺は立ち上がり、柵を開けようと手を掛けるがビクともしない。どうやらここは本当に牢屋の様だ。
すると奥から、二人分の足音が俺の居る牢屋に近づいてくるのが聞こえた。
俺は音が聞こえる方向に目線を向けるが、明かりが照らされていないからまったく見えなかったが、徐々に赤い光が見え始めて人の姿を確認することが出来た。
こちらに近づいていたのは、男女の二人組だった。その二人組は俺の居る牢屋の前で止まった。
「お! やっと起きたか! 咎人の癖に寝坊とはいい度胸してるよなぁ!」
「こら
碎と呼ばれた男は、隣に居た女に頭を思いっきり叩かれた。
「いってぇ!? 何すんだよねぇちゃん!」
「あんたが間違った事を言ってたから、体でわからせてあげただけよ。それとも、叩かれるよりも殴られる方がよかったかしら?」
「いらねぇよ!?そんな気遣い!」
なんなんだ・・・この二人は・・・
俺の前でいきなり姉弟喧嘩を二人に呆然としていると、ねぇちゃんと呼ばれている女が俺の呆然としている顔に気づき、碎と呼ばれている男を黙らせて装いを改めた。
「・・・コホン。お見苦しい所をお見せして申し訳ございませんでした。」
「いえ・・・」
「ほら碎もちゃんと謝りなさいっ!」
「え~っなんでだよ!」
「・・・・・・謝りなさい?」
「っ!?・・・・・・すみませんでした。」
碎は姉の強烈な圧に押されて渋々謝った。碎の表情は、恐怖で歪んでいた。あれは昔、姉に逆らって死んだ方がマシな体験でもしたんだろうな・・・
俺は少しだけ碎に同情していると、姉が言葉を続けた。
「はぁ・・・まったく。え~とあなたのお名前をお聞きしても?」
「あ、はい。俺は小谷蛍と言います。」
「蛍さんですね。では蛍さん。単刀直入にお聞きしますが、蛍さんはなぜここに来たのか、どこの出身なのかを教えて頂けますか?」
「俺は・・・」
俺はここまで起きた事を洗いざらいすべてこの兄弟に話した。
自分の友人が突然呪いとやらに汚染された人達に殺され、街が破壊されたこと。
ジィが話してくれたことなどをすべて話終わると、二人は考え込んだ様子で俺を見つめていた。
二人の目には俺が嘘を言っているように見えているのだろう。だから俺は、二人が口を出す前に俺は自分で言ったことを否定する。
「まっ、まぁこんな話信じてくれる訳ないですよね・・・ハハッ・・・」
「・・・かなり大規模なものだったんだな、今回のは。」
「そうね・・・ここ最近の中では一番大きいものだったんじゃない?」
「えっ・・・信じてくれるんですか?こんな突拍子もない話を。」
「えぇ信じますよ。信じますというか、私達の世界ではこのような出来事は日常茶飯事ですから。」
「だが今回のは少し特殊なケースだな。普段、街全体に現象が出るのはあまりない話なんだ。それに事情を全く知らないお前がその世界から飛ばされてきて、どうやってここまで来たかを一切忘れているときた。これは少しどころか今までに無い事態だ。」
「蛍さん。あなたのお話に出てくるジィと言う人のフルネームを教えて頂けますか?」
「?フルネームは確か・・・
「小谷明桜!? 明桜さんですか!?」
「ジィの事を知ってるんですか?」
「えぇもちろんです。明桜さんはよくこちらにいらしてましたから。私もよくお世話になりました。」
「そうか・・・明桜さんとこの人間なのか。じゃあここに来れるのも納得がいくな。そういえば明桜さんがこっちにお前を送る時になんか言ってたなかったか?」
「・・・・・・!そうだ。ジィがこれを渡してくれって言ってた。」
そういうと俺はポケットに入れていた、ジィの手紙を渡した。
「吉野宛てだな。俺吉野にこの手紙渡してくるわ。ねぇちゃんは蛍の牢屋の鍵開けといて。」
「わかったわ。」
二人は話終わると、同時に逆方向に歩き出した。おそらく牢屋の鍵は、この空間の奥にあるのだろう。
「すみません。蛍さんを囚人の様な扱いをしてしまって。」
「仕方ないですよ。身元のわからない人間を野放しにするわけに行きませんから。妥当な判断だと思いますよ。」
「そう言って頂けると助かります。」
姉はそう言うと、牢屋の鍵を解除して扉を開いた。
俺は、牢屋から出てあたりを見渡す。
廊下はあまり長くは無く、三畳程度の広さの牢屋が三つ連なっている。俺がいた牢屋は、一番奥の牢屋だったらしい。
「そういえばまだ自己紹介をしていませんでしたね。私は
瑠依葉は白髪ショートカットで、巫女装束の様な服を纏い、お淑やかな雰囲気を醸し出していた。
碎も白髪の短髪で、上が白色で下が青色の袴を纏っていた。小柄な体ではあるが、使う言葉や雰囲気によって俺より年下であることを感じさせない、貫禄のようなモノを感じさせた。
俺はなぜ彼らが神社の人のような服装を纏っていることや、事務員とやらの仕事はどんな仕事なのかと訊こうとした時、奥から碎の声が聞こえた。
「ねぇちゃん、吉野からの伝言。蛍を長室に連れて来てくれ、だとさ。」
「わかったわ。では蛍さん行きましょうか。」
俺は瑠依葉と碎に連れられて、牢屋を後にした。
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