プロローグ 其の二

「畜生っ~全員捕まっちまった~」


 ユウを含めた20人を俺1人で全員捕まえた。その最後の逃走者はユウだった。


「はぁっ、はぁっ、やっと全員捕まえた・・・やっぱユウは足速いな・・・」

「当たり前・・・だろう・・・足が速くないとサッカーなんて出来ないじゃん・・・」

「ハハッ・・・それもそうか・・・」


2人とも全力を出して走っていたからか、最後の逃走者のユウを捕まえると同時に倒れ込んでしまっていた。


「それもそうだけど・・・蛍も足速くなったじゃん・・・」

「ジィにみっちりしごかれてるからね。」

「ハハッ・・・そりゃそうか・・・」


 普段、サッカーの練習で走り込んでいるユウでもさすがに堪えたらしく、まだ息が上がっていた。

しばらくして両方とも呼吸が安定してくると、どちらからともなく立ち上がり笑い合いながらみんながいる方へ歩き出した。すると校舎の方から校庭に向かってくる人影が見えた。


「う~ん? あれって担任の後藤先生じゃない?」


 ユウに言われて、改めて見ると確かに校庭に向かってくる人影はウチの担任の後藤先生だった。

でも、先生の様子はいつもと違い少しおかしかった。いつもの先生は、明るく話しかけやすい雰囲気を纏っている人なのに、今の先生は誰も寄せ付けようとしないドス黒い闇を身に纏っているように見えた。

 俺はユウに今の先生がどう見えるか聞こうとした時、校舎の近くにいた友達の集団から大きな悲鳴が聞こえ、みんなが一斉に俺達のいる方へ駆け寄ってきた。彼らの顔はまるで人殺しにでも会ったかのように恐怖で歪んでいた。


「おいっ! 一体何があったんだ!」

「せっ先生がっ・・・トシを刺したんだよっ!」


 俺は、友達が発した言葉をすぐに理解することが出来なかった。

 トシが刺された? 先生がそんなことをするはずがないだろ・・・みんな何かに見間違えたんだ

・・・そうに決まってる・・・だってあの優しい先生がそんなこと・・・

 そう思いながら俺は、みんなが逃げて来た方向を見た。しかし、俺の淡い期待は現実という名の暴力によって粉々に打ち壊されてしまう。

先生の姿は、トシを刺した時に浴びた返り血で赤く染まっていて、トシの体は先生が持っている包丁によって滅多刺しにされボロボロになっていた。

 俺は親友の見るも無残な姿を見て呆然としていると、事切れたトシの体を見下ろしていた先生が突然顔を上げ、俺達を見ると極悪な笑みを浮かべた。


「みぃ~つけた。ダメじゃない~先生の所から勝手に離れちゃあ~そんな悪い子たちには、先生がお仕置きをしなきゃいけないわねっ!!!!」


 先生は言い放った途端、狂った嗤い声を上げながら先生は包丁を構えて俺達の方へ勢いよく走り出した。


「うっ・・・うわぁぁぁぁぁぁ!! に、逃げろぉおおおお!」


 誰かがそう叫ぶと、みんなが何かに弾かれたかのように先生とは逆の方向へ走り出した。

 ゴキッ!

 突然、何かが勢いよく砕ける音が響き渡った。その音の元を見ると、そこには白目をむいて倒れている先生の姿があった。


「みんな落ち着け! 闇雲に逃げても危険なだけだ! ある程度逃げる先に目星を付けてから行動すべきだ!」


 強い口調で言い放ったのは、足を蹴り上げた状態で立っているユウだった。

 そう。暴走していた先生は、ユウの強烈なシュートを顔にがっつり受けてダウンしていたのだった。その証拠に先生の頬には、サッカーボールの後がくっきり残っていた。


「じゃあユウには何か当てがあるのか?」

「無い。」

「えっ? 無いの?」

「うん、無い。でもここでみんなバラバラになって後で無事に合流出来るか保証がなかったし。」

「それはそうだけど・・・」

「まぁ今は、たまたまボールがあったから先生を無力化出来たけど、次はからはそうはいかなくなるから、誰かに助けを求めなきゃいけなくなる。」

「誰に?」

「まぁ、守衛所にでも行けば助けてくれるんじゃない?」

「適当だな!」

「しょうがないじゃん。じゃあ、蛍は他に何か案はあるの?」

「いや・・・無いけど・・・」

「じゃあ決まりだね。みんなはどうする? 僕と一緒についてくるか。それとも僕とは別に行動をして助けを求めるか。判断はそれぞれに任せるよ。」


 ユウは、キッパリ言い放つとみんなはそれぞれの顔を見合った。そして1分後。俺を含めた全員がユウについていくことを決断し、俺達は倒れている先生を横目に校舎に向かって歩き出した。

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