世界は廃亡と共に
依神十和
第0章はじまりにもならない物語
プロローグ 其の一
「それじゃあお前ら、絶対に生きてまた会おう。」
そんな物騒な別れ言葉と共に、俺達は一斉に走り出した。
ここは銃弾が飛び交う荒野の戦場・・・ではなく、世界の闇に触れたことによって世界中の秘密組織から追われている逃走犯・・・という訳でもない。
ここはとある田舎の小学校の校庭。この校庭で行われいたのは、思い返すだけでも身の毛がよだつ程の逃避行であった。
事の発端は少し前に起きた、ある出来事がきっかけだった。
放課後。俺、
「決まれっ!」
相手チームまで駆け上がった仲間の一人であるトシが、相手チームのゴールに向かって勢いよくボールをシュートした。そのボールはかなりな勢いでゴールまで走っていったが、そのボールがゴールのネットを揺らすことはなかった。それどころか、ボールはキーパーの元にすら届いていなかった。
「ハハッ、そんなチンケなシュートで、僕がゴールを許す訳ないじゃないか。」
ボールは、リフティングをしながら言い放つ髪を肩まで伸ばし赤いパーカーとベージュの短パンを着ている男によって止められていた。
その男の名は相手チームのキャプテン的存在、
俺達のチームのボールはすべて相羽よってカットされ、点も相羽にすべて奪われていた。
しかし、俺は相羽の一瞬の隙をついてゴールまで近づき、シュート力の高いトシにパスをしてシュートを決めてもらった。しかしその渾身の一発も、相羽に無力化されてしまった。
「畜生っ・・・強すぎんだろが・・・」
親友のトシは、そう吐き捨てると膝から崩れ落ちた。
ここまで相羽に取られた点数は、20点。俺達のチームはまだ一点も取れていなかった。せっかく手に入れたチャンスも、相羽によってつぶされてしまった俺達のチームの士気は完全に撃沈。ここで俺は降伏を宣言した。
まぁ彼にサッカーの実力で叶う奴はここにいるはずがないだろう。なぜなら彼は、U-12のサッカー日本代表に10歳で選ばれた超天才で、代表内で1、2位を争う程の実力者であるからだ。遊び感覚でサッカーをしている俺達とは次元が違い過ぎる。
俺達の落ち込み様を見た相羽は、俺達に励ましになっていない励ましの言葉を掛ける。
「まぁ~素人にしては、うまい方だと思うよ。ねっ、蛍?」
「俺に振るなよ。そもそもこのタイミングでそのセリフは、嫌味としか捉えられないよ。」
「そんなつまりはまったくないけど?」
「ユウは、そういう所が無関心だから友達が増えないんだよ。」
「蛍は失礼な奴だね。」
「どの口が言う!」
このまるでコントの様なやり取りを見ていたトシ達は、俺とユウに向かって怪訝そうな顔をして聞いてきた。
「なぁ蛍? お前、相羽と知り合いなのか?」
「知り合いも何も、ユウは俺の幼馴染だよ?」
「はぁ!? お前朝そんなこと一言も言ってなかったじゃねぇかよ!」
「えっ? だってそこまで重要なことでもないと思ってたから・・・」
「いやいや滅茶苦茶重要なことだろ! この学校じゃ珍しい転校生で、しかもその転校生が蛍の幼馴染だったら盛大に祝ってやらないといけないだろうが!」
トシが勢いよくそう言うと、その場にいた全員が頭を縦に振って同意した。
俺の幼馴染であるユウは、今日俺の通う夜桜小学校に転校してきたのだ。みんなが初めて会ったのは朝のHRの時で、その時は軽い自己紹介だけだったから、みんな俺とユウに接点があるとは思っていなかったのだろう。
「みんな・・・」
俺はそんなみんなの心意気に心が熱くなったが、そこに水を差すようなことを言う奴がいた。
「いや違うんだよみんな。蛍は僕の事が大好きでみんなに取られたくないから、言わなかったんだよ。」
「「!?」」
そう。ユウの爆弾級の破壊力がある一言によって、今まで感動的なシーンが一気に崩れてしまったのである。
「そっ、そんな訳ないだろうが!」
そんなことはない。そんなことはないからはっきりと否定すればよかった。しかしそんな俺の思考とは裏腹に、俺は自分の顔が熱くなるのを感じていた。
確かに俺は、幼馴染としてユウの事が好きだ。でもユウは男だ。俺に同性を好きになる性癖は無い。だからあいつらが想像するものとは断じて違うものだ。
最近、ユウと会う機会が無くて久しぶりに会えたから少し浮かれていたな。しかし、そう思ったのは時すでに遅しというものだった。
なぜならそれは、周りの俺を見る目が生暖かいものになっていたからだ。
「そっ、そうか。蛍は相羽の事がすきなのか・・・」
「すまなかった。気づいてやれなくて。俺達はお邪魔のようだから先に帰ることにするさ・・・」
「おいやめろ。変な気遣いをするな。俺とユウはお前たちが想像しているような関係じゃない。さっきも言っただろうが!俺とユウはただの幼馴染だ!」
「そんな照れるなよ~ だって蛍言ってたじゃん。僕の事が世界で一番好きだ、って。」
ザザッ。
ユウの言葉に反応して、みんなが一斉に一歩後ろに下がった。反応が露骨すぎるだろうが・・・
「おい。いちいちユウの言葉に反応するな。それとユウも余計なことを言うな。みんな誤解するだろうが。」
「僕の事が世界で一番好きだ。ってところを否定しないんだ~」
「っ!? 俺は幼馴染として好きなだけだ。勘違いすんな!」
俺は急いで補足をしたが、もう遅いという状態ではなくなっていた。俺とユウの一連のやり取りによって、みんなの俺に対する認識が〈男好き〉として固まってしまった。
「お前らなんだその顔は!? 俺は今、幼馴染として好きだと言ったよな!? 頼むから間違った認識をしないでくれ!」
「だからそう照れるなって。僕も蛍の事は好きだぞ。」
「・・・頼むから、お前は少し黙ってくれ。」
「蛍・・・もう正直になれよ。お前は相羽の事が好きなんだ。相羽の気持ちを受け入れてやれよ。」
トシが俺の肩に手を置きながら、しみじみとそう言い放った。
ユウも含めた全員が「うんうん」と頷きやがった。
「全員で頷くな! からかってるだろお前ら! ・・・・・・もうお前ら絶対に許さねぇ・・・
俺が逝かせてやるからいっぺん地獄見てきやがれぇ!!!」
俺はそう吐き捨てると共に、怒りに任せて全速力で走り出した。
「ヤべっ、からかい過ぎた。みんな急いで逃げろ! 今の蛍に捕まるとやられるぞ。色んな意味で。」
「余計な言葉を付け足すな!」
ユウの言葉と共にみんなが校庭を縦横無尽に逃げ出した。最初の頃は怒りのままに走り続けていた俺だったが、気持ちが落ち着いてきていつの間にか、俺は罪人の処刑人から鬼ごっこの鬼になっていた。
まぁみんなが楽しそうだったからヨシとしよう。何よりも、久しぶりにユウの笑った顔を見れてよかった。
最近はサッカーの練習が忙しかったみたいで、会うといつも疲れた顔を見せていたから少し安心した。
それにこれからは、俺と同じ学校にユウも通うから今日よりも楽しい生活が送れる思っていた。
あの事件が起きるまでは。あの事件によってすべてが変わってしまった。
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