恐怖

 破裂音が響き、硝煙が舞う。

 見事に視力を奪うことに成功したフォンセは、そのままワイヴァーンの頭から地面へと跳び、コートを揺らしながら着地した。

 その後ろでは、ワイヴァーンが横へと倒れる。


「次は右目を──」


 すぐさま切り替え、ワイヴァーンが倒れている隙にもう片方の視力を奪いに行く。

 振り返り走り出そうとしたが、フォンセの右から太く長いワイヴァーンの尾が迫っていた。


 それを右手に持っている拳銃の銃底で一度受け止め、瞬時にその場で跳び回転しながら躱す。

 流されそうになるが、両足でしっかりと着地をし、立ち上がった。


「くそっ!!」


 ワイヴァーンはもう体勢を整えており、潰れていない左目を彼に向けている。そして、噛み付こうと口を広げた。


「お兄ちゃん!!!!」


 ルーナの叫び声とともに、フォンセは右横へと走り出そうとした。その時、強い風が吹き荒れ、それと共に炎の拳がワイヴァーンの右顔に当たる。


炎の拳フィスト・フレイム!!」


 カマルが星壱郎の精霊、シルフの風に乗り、ワイヴァーンを殴った。

 そのまま、重力に従い地面へと降りフォンセへと走る。


「キリがないぞフォンセ兄さん!! 倒しても倒してもワーウルフが湧いて出てくる!!」


 カマルは顔を青くし、汗を拭いながら焦り混じりで伝える

 彼が指さした方を見ると、ワーウルフの数は減っているようには見えるが、まだあと三十から五十はいる。


 ルーナも駆け寄り、今の現状に焦りを滲み出していた。


「………わかった。カマルは俺とワイヴァーンの相手をしてくれ」

「了解」

「ルーナはワーウルフを。おそらく、ワイヴァーン相手にするより効率がいい」

「了解」


 そう伝えると、それぞれが自身の立ち位置に向かう。


「フォンセさん、俺は外から現状を見て援護します」

「大丈夫なのか、星壱郎」

「大丈夫。絶対に力になってみせますよ」


 眉を上げ力強い瞳を向けた星壱郎は、頷きながら言いきった。それを聞いたフォンセは、彼の決意に応えるよう、首を縦に振り頷いた。


Are you ready準備はいいか?」

yesはい!」


 そう口にし合い、二人はカマルの近くへと移動する。


「まずは残りの視力を潰し、動きを封じる!」

「なら、俺がシルフで二人の背中を押し、ウンディーネで制限します!」

「任せた!!」


 フォンセは両腕を後ろへ流し、膝を深く折る。すると、それに合わせるように風が吹き、一瞬のうちにワイヴァーンの正面へと移動した。

 カマルも同じく風に乗り、フォンセの隣へと移動する。


「シルフ、その調子で二人の動きに合わせ風で援護を頼む!」

『わかりました主様!!』

「ウンディーネは水龍でワイヴァーンの動きを制限し、二人を動きやすくしてくれ」

『お任せ下さい』


 精霊二人は元気に返事をする。


 シルフは、先程と同じく指揮者のように両腕をしなやかに動かし、風を操る。

 集中するために目を閉じているが、風は一寸の狂いもなくカマルとフォンセの背中を後押ししていた。


 ウンディーネは水龍を操り、ワイヴァーンへと巻き付かせた。


 身動きが取れなくなったワイヴァーンの顔右横まで、カマルは両拳に炎を纏わせ、風に乗り跳ぶ。フォンセも同時に同じく、彼とは反対側へと跳び体幹を支え、体を捻り回し蹴りをした。

 皮膚が硬いため、全く効いていない。


 ワイヴァーンの黒い瞳は、フォンセを見据えており、目が合った。


「────貰った」


 フォンセと目が合った。ということは、カマルの方が死角となる。


 右腕を引き、左手を胸あたりまで上げ前へと出す。

 カマルは目を開き歯を食いしばり、引いた右手を真っ赤に燃やし、ワイヴァーンの残っている右目へと拳を繰り出した。


「やったか?!」

「命中はしたはずだ!!」


 フォンセが視線を誘導し、カマルが視力を奪う。

 今は白い煙がたちこめどのようになったか見ることが出来ない。


 二人は地面へ着地し、いつでも動けるように拳を構え、銃口を向ける。


 シルフとウンディーネ、星壱郎も固唾を飲み、ワイヴァーンから目をそらさず見続けている。


 徐々に白い煙は晴れていき、ワイヴァーンの姿を見ることが出来た。だが──


「っ!!」

「な、なんだ!!」

「耳が、痛い!!!!」


 いきなりワイヴァーンが口を大きく開き、翼をばたつかせ、尾を振り回しながら叫び出した。

 三人は、空気を揺らすほどの叫び声に顔を歪め、歯を食いしばり耳を塞ぐ。


 それでも叫び散らし、大きな音を立てながら苦しんでいる。

 両目とも黒い瞳が見えなくなっているため、視力を奪うことには成功。だが、それにより暗闇へとなった視覚で、ワイヴァーンが混乱し暴れだしてしまった。


 ルーナはワーウルフの数を確実に減らしてはいたが、今の叫び声により顔を逸らしてしまう。


「お、にいちゃん……」


 心配そうな声を上げるルーナの背後に、複数のワーウルフがチャンスというように、手に持っている槍を彼女の背中目掛けて突き出した。


「っ。|Never underestimate a woman《女を舐めるなよ》」


 薄紅色の髪をふわりと揺らし、ルーナは振り向くのと同時に、左手に持っている拳銃の銃底で、繰り出された槍を弾す。

 勢いを殺さず、そのまま左足を軸にし、右足で目の前にいるワーウルフ一体に回し蹴りをした。その衝撃で後ろへと吹っ飛び、付近にいた数体のワーウルフも巻き込むことに成功。


「今は、君達を倒す」


 右手を前に、肘を上げ左手を顔横に持っていき、拳銃を逆手に構える。

 いつものように慣れたような手つきで流れるように構え、ルーナは殺気の含まれた鋭い眼光をワーウルフ達へと向け、口を開く。


「お兄ちゃん、負けないで」


 その言葉はまるで、今後の彼らがどのようになるのか分かっているような。

 恐怖を感じとれるような、悲しく苦しそうな声だった。



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