憤怒の罪
赤い瞳
叫び散らしているワイヴァーンを目の前に。星壱郎は耳を塞ぎながらも、目を離さずに何かを考えていた。
「この世界は俺の考えた世界。なら、俺の思考が少しは反映されるはず……。俺なら、こいつの弱点を考えるなら……」
そう呟き、眉を寄せ耳から手を離す。そして、いきなりワイヴァーンに向けて走り出した。
「っ星壱郎待て!!」
フォンセが止めるのも聞かず、星壱郎は手に何も持たずに走り、ワイヴァーンのお腹あたりに滑り込む。
「俺が考える弱点!! それは、ここだ!!」
右手の親指の腹部分を噛み、血を流し地面に押し付ける。すると、勝手に魔法陣が描かれ光り出す。
『我に力を貸せ──
口にするのと同時に、魔法陣が赤く燃え上がる。そこから赤い皮膚を纏い、背中には二対の翼。体の大きさは子供サイズだが、赤い瞳から放たれる圧は鋭く、上にいるワイヴァーンを見上げる竜が現れた。
「サラマンダー、
『ガゥ!!!!!』
星壱郎の言葉に応えるよう、サラマンダーは大きな口を開き、赤く輝いている炎を勢いよく吐く。
お腹へともろに炎を食らわせることが出来た。そのため、ワイヴァーンは慌てたように翼を広げ、上空へと逃げる。
それを目にした星壱郎は「よしっ」と口にし、サラマンダーを撫でる。
「まさか、同時に三体……」
「すっげぇ!!!!」
フォンセは星壱郎の行った驚異を目の当たりにし、口を引き攣らせている。
カマルは目を大きく開き、輝かせ彼を見ていた。
炎をもろに食らったワイヴァーンだったが、少しだけお腹が焦げただけ。すぐに上空を自由に飛び回る。
「フォンセさん、カマルさん!! ワイヴァーンの弱点はおなっ──」
星壱郎が二人に伝えようとした時、ワイヴァーンが彼の隣を勢いよく通り過ぎ、カマルを尾で薙ぎ払おうとする。
咄嗟に両腕を胸あたりに持っていき防ごうとしたが、勢いが強すぎたためそのまま後方へと吹っ飛ばされてしまった。
「カマル!! っくそ!!!」
次にワイヴァーンが狙いを定めたのは、カマルの隣にたっていたフォンセだ。
「シルフ、ウンディーネ!! ワイヴァーンの動きを制限しろ!!」
『『主様の仰せのままに』』
二人は飛び出し、フォンセの正面へ移動しようとした。だが、頭に血が上っているワイヴァーンは彼女達を捉え、一際大きい咆哮を食らわせた。
「う、うそ……」
咆哮により二人は顔を覆い、なぜかかき消されてしまった。
その隙に、フォンセはワイヴァーンの懐へと滑り込み、背中を地面につけながら両手を前にのばし銃口を向ける。
「
少しだけ黒く変色しているワイヴァーンのお腹へと、青く輝いている弾丸を放った。
そのまま尾の方へと滑り、抜け出す。
フォンセは体をひねり、地面に右手をつき少し距離を取った所で止まる。
「どうだっ──」
フォンセは、前方にいるはずのワイヴァーンを見ようとする。だが、そこには先程までいたはずのワイヴァーンはい無くなっていた。
「後ろだフォンセ!!」
風を切る音が響き、ワイヴァーンは上空から体を反転させ飛びフォンセの後ろへと移動。
避ける暇すら与えず、ワイヴァーンは口を開けフォンセに噛みつき、上空へと飛んだ。
「フォンセ!!!!!」
顔を真っ青にし、星壱郎は上空を飛び回るワイヴァーンに叫ぶ。
咥えられているフォンセは、腰やお腹から血を流し、口からも血反吐を吐いていた。
それでも歯を食いしばり、拳銃を握る手に力を込める。
幸いなことに、両腕は動かすことが出来るため、負けじと撃とうとした。
「ガッ!?!」
だが、少し腕を動かしただけで、ワイヴァーンが噛む力を強くする。
血が滴り落ち、フォンセは二丁の拳銃を落としてしまった。
カランという音が鳴り、落ちた拳銃の近くに壁まで吹っ飛ばされたカマルが、左腕を抑え、上を見る。
頭からは血を流し、片目を閉じていた。
左手から右手を離し、拳を作る。
肩幅まで両足を広げ、横向きになり右手を腰より後ろへと引く。左手を右の拳に添え、徐々に炎の威力が上げていった。
深呼吸をし、歯を食いしばる。
「許さねぇぞ。兄ちゃんを返せ!!!!
今までの炎とは比べ物にならないほど赤く、激しく燃え上がっている拳をワイヴァーンへと繰り出す。すると、巨大な炎の弾丸が真っ直ぐと、ワイヴァーンへと向かっていった。
見事にワイヴァーンの腹部へと命中。
威力が凄まじく、体が勢いに負け天井へと吹っ飛び、フォンセを咥えていた口が開いた。そのまま、地面へと力なく落ちる。
「サラマンダー!!」
『がうっ!!!!』
サラマンダーは、星壱郎から離れフォンセへも向かっていく。
その際に体を大きくしていき、人一人乗れるくらいへとなった。
頭から落ちているフォンセを背中で受止め、地面へと降りる。
フォンセはまだ意識があり、背中に落ちる手前、両手を前に出し受身をとっていた。
地面へと降りたサラマンダーの背中に、フォンセが力なく倒れており、星壱郎か慌てて近づき声をかける。
「フォンセ! しっかりしてよフォンセ!!!」
「………うっ、あ、悪い……。しくじった」
「良かった。まだ、意識はあるな。ここの攻略は諦め、早く外に出よう!! 命が危ないぞ!!」
汗を流し、顔を青くしながら星壱郎はそう喚き散らしている。その様子を見て、フォンセは口元に軽く笑みを浮かべた。
「今のが、お前の素……か?」
「……は? なにを……」
「最初、ひ弱そうな奴が来たなと、思ったが……。なるほどな……」
フォンセは笑みを浮かべながらサラマンダーの背中から降りた。だが、力が入らないらしく、地面を赤く染め倒れ込む。
「む、無理するな!!」
「星壱郎、召喚士はこの世界では異質な存在だ。それは、悪い方でも。良い方でも……。召喚士は、最強ランクの職業だ。使い方を、間違えるなよ……」
慌てて駆け寄り手を伸ばす。
フォンセの体を膝と手で支え、楽な体勢をさせる。その際も、傷口からは血が溢れ出ており、床を赤く染めていく。
目を細め、彼は星壱郎に優しい笑みを向け頭を撫でた。
「短い時間だったが、最後に、お前と戦えて、楽しかっ……た、ぞ……」
その言葉を最後に星壱郎の頭に乗っていた手は、力無く地面へと落ちる。
星壱郎がフォンセを支えていたため、服や手が真っ赤に染まっていた。
それを見た彼は目を大きく開け、体を震わせた。息が荒くなり、赤く染った右手で自身の右目に巻かれている包帯を掴む。
「うっ、ぁあぁあ、……ぁぁぁあああああ!!!!!!!」
人の死を目の当たりにし、星壱郎は包帯を無理やり引きちぎる。そして、今まで隠していた赤い瞳を露にした。
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