ダンジョン
途中何度もランクの低いモンスターが襲ってきたが、全員無傷でダンジョンに辿り着くことができた。だが、ただ一人だけ息が荒く、地面に倒れ込みそうになっている男性がいる。
「…………だろうなと思ったわ」
「体力無さすぎるぞ星壱郎!!」
「で、でも仕方がないんじゃ……。旅に慣れていないように見えるし」
フォンセとカマルの言葉に対し、星壱郎をフォローするようにルーナが口にする。
星壱郎は精霊の風を使い、少しでも楽をして移動していた。だが、ダンジョンに着く時にはもう体力が無くなったらしく、膝に手を置き汗を流し息を整えていた。
「た、体力は……そ、う簡単に、付きません……」
息が耐え耐えながらもそう口にし、星壱郎は汗を拭いながら目の前に建っているダンジョンに目を向ける。
「こ、ここが、ダンジョン……?」
「そうだ。ここには低ランクのモンスターが複数と、ボスと言えるモンスターが2体いるらしい。どちらもS級らしく、油断するとやられてしまうな」
懐から資料を一枚取りだし、フォンセは顎に手を当て考えながら口にした。
目の前に立ちはだかるダンジョンは、簡単に言えば細長い塔。レンガで作られているのか、小豆色の壁画が雲の上まであるんじゃないかと思うほど高い。
ところどころには穴が空いているおり、窓替わりになっていた。
シンプルな見た目なだけに、中がどうなっているのか分からない。
「なぁなぁ、まだ入らねぇの?」
「ちょっと待て。さすがに疲れている星壱郎を連れて中に入るのは命取りだ。俺達も守りながら戦うのには限度があるからな」
「あ、あの、だいぶ良くなったので……」
控えめに星壱郎が言うと、フォンセとルーナが心配そうに伺い「本当?」と彼女が問いかけた。その問いに彼は頷き、塔を改めて見上げる。
額から流れている汗をそのままに、左目には強い闘志を燃やしている。
「もしかしたら、このダンジョンで……」
星壱郎はそれだけを口にし、かぶりを振った。何か思い詰めているような顔を浮かべているが、自身の胸を手を置く。そして、改めて三人を見回した。
「行きましょう。少しでも役にたちます」
そう宣言したら星壱郎を見て、三人は力強く頷く。
代表としてフォンセがダンジョンの扉を開き、中へと足を踏み入れた。
※※
ダンジョンの中は見た目からでは考えられないほど広く、星壱郎は思わず入ってきた扉を振り返る。
「さすがダンジョン。時空が歪んでんな」
「モンスターの気配もすごいよ。カマルお兄ちゃん、いつもみたいに先走らないでね?」
「大丈夫だ!! さすがに、ここで一人行動は命取りだからな!!」
そう宣言しているカマルだったがその目は輝いており、いつ走り出してもおかしくない。
フォンセは苦笑いを浮かべながら、彼の手首を掴み歩き出した。
「いつも先走るの?」
「ほぼ毎回走りますね。でも、今までのダンジョンはそれでも良かったんですが、今回のは少し異なる気がします。本当にS級なんでしょうか……?」
ルーナは眉を下げ、少し不安げに辺りを見回している。
「…………このダンジョン、もしかしたらS級じゃないかもしれない……」
「え?」
「た、多分だけど……」
星壱郎の言葉に、ルーナは首を傾げている。
そんな二人を振り返り、カマルとフォンセは声をかけ急かした。
「早く行くぞー」
「あ、行きます行きます!」
フォンセの言葉に星壱郎は焦るように返事をし、ルーナと共に駆け出した。
※※
見た目からでは想像出来なかった広いダンジョンの中を進んでいると、徐々に辺りが暗くなってきた。
上を見上げると陽光を差し込んでいた窓が少なくなっており、星壱郎達まで光が届かなくなっている。足元も見えにくくなり始め、不安感が星壱郎達を襲う。
「カマル、炎で周りを照らしてくれるか?」
「了解だ!」
カマルは右手を胸あたりまで上げ、広げるとそこから炎の玉が現れ周りを赤く照らす。
足元も見やすくなり、星壱郎はホッと胸を撫で下ろした。
「このまま進んで大丈夫なの?」
「道は一本しか無かったはずだからな」
「このまま進むしかないんじゃないか? それに、他に曲がり角も──お?」
「あれ、どうしたんですか?」
ルーナが心配そうにフォンセに問いかけ、カマルが前を歩きながら進んでいた。すると、いきなりその場に立ち止まる。
その事に星壱郎は不思議そうに首を傾げた。
「いや、前を見てくれ」
「あれって、光?」
「青く輝いているね。なんだろう」
そのまま四人は、光の照らされている方向へと進む。
「わぁ、すっごく綺麗!! これが、S級ダンジョン!!」
ルーナがいち早く近づき、前方に広がっている光景に目を輝かせる。
「すげぇな」
「おぉ!! めっちゃ光ってんじゃん!」
「こんな場所、書いた覚えないんだけど……」
目の前には神秘的な光景が広がっていた。
上には窓などが無いはずだがどこからか青い光を放っており、地面や壁を青く輝かせている。
空中にはキラキラと飛び交っている蛍のような淡い光があり、その中心には下へと続く階段があった。
「ここから下に行けるんですかね」
「だと思うぞ。おそらく、俺達が歩いていたのは、ダンジョンの玄関だったんだろうな。これからが本場のダンジョン攻略というわけか。行くぞ、カマル、ルーナ」
「「はーい」」
フォンセの声掛けにより光の中を走り回っていた二人は、笑顔を浮かべながら階段の方へと向かっていく。
そして、足元に気をつけながら階段を降りていった。
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