シルフ

 村を出た四人は、仲良く横並びになりながら歩いていた。

 広い道なため、横並びになったところでなんの問題もない。


 周りは開けており、草原が広がっていた。

 自然の匂いが鼻に入り、天気も良く太陽が周りの樹木や動物達を照らしている。

 緩やかな風が吹き、四人の様々なお色をしている髪を揺らしていた。


「S級ダンジョン! S級ダンジョン!」

「さっきからうるさいぞカマル。一応、ダンジョンは危険な場所で、いつ命を落としてもおかしくないんだからな。召喚士が入ったとしても、まだまだ初心者。甘く見るなよ?」

「そうだよカマルお兄ちゃん!! 何が待ち受けているか分からないんだから気をつけて!!」

「うっ、ごめんなさい……」


 ルーナが一歩前に出てフリルの付いたスカートを揺らし、カマルに対して少し怒った。

 彼は素直に謝り、肩を落としてしまう。


「ところで、星壱郎は本当に召喚士なのか?」

「俺にはさっぱりなので……。でも、召喚士だった場合、魔法陣を書けば精霊などを呼び出すことができるのでしょうか」

「恐らくな。だが、召喚士は膨大な魔力を使用すると聞く。見たところ、お前にはそんなに大量の魔力があるとは思えないんだけどな……」

「俺自身、そう思います……」


 フォンセの指摘を聞いて、星壱郎は苦笑いをうかべながらもそのように返した。


「そうだ! 今ここで試してみたら? 練習も兼ねてさ!」


 ルーナがそう笑顔で口にし、フォンセは「それもそうだな」と星壱郎に顔を向けた。


「よし、今ここでランクの低い精霊を呼び出そうか」

「え、出そうかって……。そんな感じで出せるんですか?」

「魔法陣を書いて、そこに魔力を送り込むことが出来れば問題は無いはずだ。だが、本当に謎が多い。まだほかに何かが必要なのなら、今の俺達ではわからん」

「わ、分かりました。とりあえず、書いてみますね」

「? お、おう。…………分かるのか?」


 彼は知ってるかのように地面に魔法陣を書こうとした。そのため、フォンセは控えめに問いかける。

 その問いに、星壱郎は再度顔を青くし大きく首を横に振った。


「な、流れで書こうとしてしまいましたが、そういえば分かりません! 分からないので教えて頂けますか?!」


 慌てて問いかける星壱郎の勢いに狼狽えながらも、フォンセは「お、おう」と地面に魔法陣を描き始めた。


 ※※


 地面には、丸の中に五芒星が描かれている陣が二つ描かれる。

 フォンセのを見て、星壱郎も隣に全く同じのを描いていた。


「これで恐らく問題ないだろうな。魔力は内に秘める力だ。イメージをすれば送ることが出来る。気を外へと出すイメージでやって見るといい」

「…………や、やってみます……」


 眉を下げ手首の運動をし、自分で書いた魔法陣の前で片膝をつき添える。

 集中するため目を閉じ、息をゆっくりと吐いた。


「まず、風の精霊、シルフを呼び出してみろ」

「分かりました」


 頭の中でイメージを強くしているのか、魔法陣から徐々に緑色の光が放たれ始めた。その光は勢いを増していく。


『我に力を貸せ── Summon召喚 siruhuシルフ


 星壱郎が口にするとその声に反応するように、魔法陣から一人の精霊が現れ始めた。


 色白の肌に、緑色のワンピース。背中には緑と白の羽が広げられていた。

 髪は少し巻かれており、こちらも黄緑色をしている。

 身長は、おそらく100行くか行かないかだ。


『……──我は風の精霊、シルフ。主の仰せのままに!!』


 若葉色の両目を開き、元気いっぱいにそう口にしたシフル。微かにハーブの匂いを漂わせており、星壱郎は思わず見惚れてしまった。


「す、すご……。こんな感じに出るんだ」


 他の三人も初めて召喚士の魔術を目にしたため、目を輝かせ見惚れていた。


「す、凄いぞ星壱郎!!!」

「うん!! 本当に凄いよ星壱郎さん!! 本当に精霊を出しちゃった!!」


 大きな声で喜ぶカマルとルーナの後ろで、目を大きく開き固まっているフォンセがゆっくりと歩き出した。そして、右手を精霊シルフに伸ばす。

 その手から逃げるようなことはせず、シルフは逆に撫でろというように頭を差し出した。

 その態度に驚いた彼だったが直ぐに察したらしく、大きな男性の手でシルフの頭を優しく撫でる。


 その事に対し、シルフは気持ちよさそうに目を細める。

 笑みを浮かべているシルフは、本当に精霊なのかと思うほど無邪気で愛らしい。


「とりあえず、体に異変はないし、少しは三人の役に立てますかね」

「…………そうだな。これから、また冒険が楽になりそうだ」

「良かったです」


 フォンセの言葉を耳にし、彼はほっと胸を撫で下ろす。

 その後は、シルフが魔法陣に戻りたがらなかったため、空中を飛びまわりながら四人と一緒に行動することとなった。

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