想定外

『気をつけてくださいね主様!!』

「あ、ありがとう」


 下へと降りると、そこには広場と呼ばれるほど大きな空間が広がっていた。


 どこから漏れているか分からないが、広場全体が発光しているように見える。壁の隙間から緑が見え隠れして、端の方には何本か花も咲いている。

 四人が歩く度、足音が広場に響き渡っていた。


「わぁ、なんかすごいねぇ」

「ここがランクの高いダンジョン!! 絶対に財宝とか、今まで見た事がないもんが埋まってるぞ!!!」


 テンションが上がっている二人の後ろを、冷静に周りを見ながら歩いているフォンセがいきなり立ち止まる。目を細め、なにやら集中し始めた。

 その様子を星壱郎が後ろから見ており、眉をひそめ同じく考え込む。


「ここのダンジョン、確かもっと小説の後半に出てたはず。なんでこんな序盤……と、いうかまだS級の三人にこんなダンジョンを……」


 そう呟いていると、どこからかドシドシといった。大量の何かが迫ってきているような足音が聞こえ始めた。


「なんのおっ──」


 音がする方に星壱郎が目線を送ると、すぐに顔を青くし言葉が詰まる。

 迫ってきていたのは二足歩行の狼だ。手に槍を持ち、体には鎧を纏った姿で走ってきているのが確認できた。しかも、一体や二体ではない。何百は確実にいる。


「ひっ?!!!」


 顔を青くし彼が声にならない叫び声をあげると、フォンセとカマルはそちらに顔を向け瞬時に走り出した。


「ワーウルフか。星壱郎はルーナに任せた」

「わかった!」


 フォンセは拳銃に手を伸ばし、グリップを握った。

 そのまま流れるように右手を前へ、左の肘を上げ逆手で構える。


 カマルは拳を強く握り炎を纏わせ、横向きになり肩幅に足を広げた。


Let's go行くぞ


 フォンセの言葉を合図に、カマルは地面を蹴り空中へと飛んだ。

 握っている右の拳を一度顔の後ろまで引き、勢いよく突き出した。そこから、大きな炎の玉が放たれワーウルフを数体巻き込む。

 空中にいる間にそれを複数回食らわせ、地面へと着地した。


 カマルの攻撃で倒しきれなかったワーウルフを、フォンセが二丁の拳銃で脳天を撃ち抜いていく。だが、それでも減っている気がしないほどワーウルフが走ってきていた。


「キリがないな。カマル、俺は右から行く、お前は左から頼む」

「了解!」


 そう言葉を交わしたあと、カマルはその場で深呼吸をし両足を広げ左足を前に出し、右側に体を少し傾ける。

 両拳をこめかみの高さまで上げ、両脇は軽く締めた。軽く膝を曲げ、顎を引き視線が下へと落ちないように構える。


炎の拳影シャドウ・フィスト・フレイム!!」


 闘志を宿した瞳をワーウルフに向け、強く握った拳を前へと突き出した。そこから、揺らめく赤い炎を勢いよく放った。

 放たれた炎は、真っ直ぐと左側に居るワーウルフの集団へと向かい一体に当たる。勢いが強かったため、一体のワーウルフに当たった瞬間、花火のように四方へと散乱した。

 周りのワーウルフを巻き込むことが出来たため、一気に倒すことに成功。


「このまま終わりにしてやるよ!!」


 突き出した右手を直ぐに戻し、再度脇を締め、息を整えた。


「次は、連続で行くぞ!!」


 こめかみ辺りで構えている右手の拳を、先程と同じように前へ突き出す。炎を前方へと放つと、すぐさま元の構えへと戻し、次は左拳を突き出した。それを何度も繰り返し、炎を放ち続ける。


「おらぁぁぁぁああああああ!!!!!」


 気合いが入る声と共に、風を切るような音が聞こえる。一つの炎がワーウルフを一気に四体倒す。


「やるな、カマル。俺も負けてらんねぇわ」


 次々と倒していくカマルを横目にフォンセは口元に笑みを浮かべ、二丁の拳銃をいつものように構えた。


 一体のワーウルフが、フォンセへと両手で持っていた槍を突き刺す。

 それを右手に持っている拳銃の銃底で槍の柄部分を右横へと押し、狙いを逸らした。

 左手に持っている拳銃でバランスを崩したワーウルフの額へと一発、弾丸を撃ち込む。

 そのままの流れで体をひねり、回し蹴りを食らわせ横へと吹き飛ばし、他のワーウルフを巻き込ませた。


 次から次へと迫ってくるワーウルフは、両手で槍を持ち次々とフォンセへ四方から突き刺そうとする。


 すぐさま彼は膝を折り地面に左手を着き躱し、右手で連続で射撃。どれも一発でワーウルフの額を撃ち抜いた。

 すぐさま立ち上がり、両手を前へと突き出し連射。

 囲まれてしまっているのが好都合というように、前へと突き出していた両手をゆっくりとと左右へと広げ始め、徐々に仕留めていく。


 弾丸を掻い潜り近づいてきたワーウルフには、瞬時にグリップを握っている右手の項で顔を殴る。

 口から血反吐を吐き倒れるワーウルフを蹴りあげ、他のワーウルフ達の動きを牽制する。

 膝を折り地面を蹴ったフォンセは、前方に何体もいるワーウルフのうち一体の顔面に、走っている勢いのまま跳び、膝蹴り。そのままの勢いで身体をひねり、横へと吹き飛ばした。


 地面着地したのと同時に、近くにいるワーウルフの額に弾丸を撃ち込み、徐々に数を減らしていく。


 そんな彼らの戦いを外から見ていた星壱郎は、目を開き釘付けとなっていた。


「す、凄い……」

『主!! 私達も手を貸しましょう!』

「え、でもどうやって」

『私に任せてください!!!』


 星壱郎の隣に飛んでいたシルフは胸元あたりで両手を握り、眉をキリッと上げ宣言した。すると、緑色の羽を大きく広げ、フォンセ達の所へと向かおうする。それを星壱郎は瞬時に腕を掴み止めた。


「え、ちょ、シルフ! まっ──」


 彼が止めるため口を開いた瞬間、ルーナと星壱郎にいきなり影がかかる。

 ゆっくりと二人が後ろを振り向くと、そこにはいるはずのないモンスターがルーナと星壱郎を見下ろしていた。


「な、なんで……。SSSトリプルエスランクのモンスター、ワイヴァーンが、このダンジョンに?」

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