登場人物

 爆発音と風圧で、星壱郎は地面の草を握りぶっ飛ばされないように耐えていた。


「な、んだよ……」


 今、彼の目の前では、現実ではありえない光景が繰り広げられている。


 カマルは炎の拳を放ったあと、右手を下ろし、煙が立ち込める光景を眺めていた。拳を纏っていた炎は、揺らめいた後に一瞬で消える。

 余裕そうな笑みを浮かべ、どうなっているのか確認する。

 その光景はまるで、アニメや小説の世界のように見え、星壱郎は地面に這いつくばったまま、口をパクパクと動かし顔を青くしていた。


「さて、晩御飯晩御飯!」


 熊の姿を確認でき、カマルは楽しげにスキップでもしているような軽やかさで、前方に倒れている熊の元へと近づいていく。

 口笛まで吹いており、ただただ星壱郎は困惑するばかりだ。


 何故、人ではありえない威力を彼は出すことが出来たのか。

 見たところ、身長は星壱郎とあまり大差ないため、大体170〜180ぐらい。

 筋肉質ではあるが、自分より何倍も大きな熊を吹っ飛ばすなど、普通の人間には無理だろう。


 もう1つ、普通の人間では到底不可能なことを彼はやっていた。それは、拳に炎を纏わせること。

 普通、炎に手が触れるだけで火傷してしまうはずなのに、彼は短時間ではあるが拳に纏わせていた。それだけではなく、自身の拳から炎を出したように見えた。


 常人ではできるはずのない事を同時に2つやった彼を、星壱郎は少し怯えた顔を浮かべ見続けている。

 今は、あんな超人なことをした人とは思えないほど、無邪気な笑顔を浮かべ、地面に倒れ込んでいる熊を背負おうとしている。そして、彼を見ていた星壱郎と目が合い、満面な笑みを浮かべた。


「星壱郎、お前はこれからどうするんだ?」

「ど、どうするもこうするも……。俺自身、どうすればいいのか分からないんだけど……」

「そうか! なら、一緒に行動しないか? さすがに、こんな熊1匹に負けている奴をほっとくのは気が引けるわ……」


 眉を下げ、人を憐れむような瞳で星壱郎にそう伝えた。

 その言葉に、少し複雑そうな顔を浮かべた星壱郎だが、周りを見回し、自分がどんな状況に置かれているか再度確認したあと、素直に頷いた。


「よ、よろしくお願いします……」

「よしっ! なら、付いてこい。俺の仲間があと2人いるんだ。それと、その目についても相談した方がいいと思うぞ。俺じゃ詳しくわからんからな!!」

「あ、そういえば……。あの、目ってなんですか? 俺の目は普通の茶色かと思うんですが……」

「何言ってんだ? お前の目は召喚士特有の左右非対称な色をしているぞ?」


 その言葉を聞いた瞬間、星壱郎は目を大きく見開き、わなわなと口元を震わせる。だが、その様子などカマルは気にする様子を見せず、熊を背負いながら歩き始めた。

 さすがに引きずらないと運べないらしく、彼が歩く度、ズル……ズル……という音が響いている。

 星壱郎は、その様子を見て何とか落ち着くため、深呼吸した。

 その後、難しい顔を浮かべ、顎に手を当て考える素振りを見せる。


「左右非対称の瞳が召喚士……。その設定って……。それに、カマルって……」


 その呟きは、本人には聞こえなかったようで、今もズルズルと熊を引きずりながら、鼻歌を口ずさみ、森の中を進んでいく。


「そういえば、星壱郎が言っていた白須町?? って、どこにあるんだ? 俺は色んな村や町を回ってきたが、そんな名前聞いたことがないぞ?」

「えっと……。すいません、俺も本当によくわかんないんです。パソコンが眩い光を放ち、目を閉じたら、なぜかこんな所に立たされており……」

「そうか。なら、兄さんに聞いた方がいいかもしれないな。何か知っているかもしれない」

「兄さん?」

「さっき言った仲間だ! 俺の兄さん、名前はフォンセ・テネーブル。そして、兄さんの妹、ルーナ・テネーブル」

「本当の?」

「あぁ、俺は兄さんに拾われたんだよ。だから、血の繋がりはない。けど、兄さんがそう呼んでいいと言ってくれたから、俺はそう呼んでんだよ」


 その声は少し悲しげだったが、後半は何かを思い出してか、すぐに明るくなった。


「俺は優しくて強い兄さんが大好きで、すごく仲間思いで可愛いルーナのことも大好きだ!!!」

「…………そっか。良かったですね」

「おう!!」


 相当仲間が大好きらしく、その声は弾んでおり、聞いている星壱郎も自然と笑みを浮かべていた。すると、目的地に辿り着いたらしく、カマルが「おーい!!」と声を上げた。


「今日の晩御飯、取ってきたぞ!!」

「そうか、お疲れ様」

「お疲れ様、カマルお兄ちゃん」


 少し低めの声と、透き通るような声が同時に聞こえ、星壱郎は少し顔を覗き込むように前方の2人を確認した。


 カマルが声をかけた男性は、目の前にある焚き火に、木の棒が刺さっている魚を周りに突き刺していた。


 耳が隠れるくらいの黒い短髪に、藍色の鋭い瞳。伯爵と科学者が合わせられたような服を身にまとっている。

 モノトーンでまとめられており、左腕は少し長い広めの袖、右手は動きやすいようになのか、白いワイシャツを肘まで捲っている。

 細身の腰と足にはベルトが巻かれており、膝下あたりまでのブーツを履いている。

 上着はベルトで止められ、脛辺りまで長い。


 その隣でヨダレを垂らし、魚を輝いた目で見ている女性が1人。


 薄紅色の腰ぐらいまで長い、ゆるふわな髪に、フォンセと同じ色の瞳。目はぱっちり二重で可愛い。

 広いフリルのドレスを主体とした服を着ており、華やかに着飾っている。

 黒い上着の中には、白い薄手の着物を着ており、袖はたすき掛けしている。

 膝ぐらいまで長いスカートはグレーで、腰に巻かれている大きめなリボンは青藍せいらん色だ。

 白いタイツに黒いローファーを履いている。


「…………この人達って……、俺が書いてた小説の、登場人物達……?」

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