非現実的
「んっ……。ん、んん?? え、ちょっ!? な、なんなんだよ……はぁ? え、はぁ?! な、んで……。俺、部屋にいたはずじゃ……?」
パソコンから眩い光が放たれ目を閉じ、落ち着いたと思ったらしい星壱郎は、ゆっくりと覆っていた腕を下げ左右非対称の目を開けた。すると、信じられない光景が目に移り、困惑の声を上げる。
今、星壱郎が立たされている場所は、綺麗な緑が広がっている森の中。
陽光が差し込み、緑色に植物達を光らせている。
自身より高い樹木に囲まれ、彼は顔を青ざめ立ち尽くしてしまった。
鳥の鳴き声や肌を撫でるような気持のいい風。
自然特有の匂いが鼻を刺激するため、ここがバーチャル世界などではなく、現実であることがわかる。
いきなりこのようなところに黒の上下スウェットて立たされた星壱郎は、藍色と深緑色の瞳が恐怖で揺れる。
何も出来ず、歯をカタカタと震わせながらその場にしゃがみこみ、頭を掻き回す。
「おいおい……、なんなんだよ。ここ、どこなんだよ……」
頭を抱えていると、いきなり大きな影が陽光を遮り影を作る。その事を不思議に思った星壱郎は、顔だけを上げた。そこには、鋭い爪と牙を備え持ち、茶色の毛皮が風に乗ってゆらゆらと揺れ、黒く丸い瞳を彼に向けた、人間より一回り以上大きい熊が、両手を広げ、ヨダレを垂らし彼を見下ろし、立っていた。
「ひっ、あ、ああ……ぁぁぁあああああ!!!!!!」
後ろへ逃げようと星壱郎は振り向いたが、その際慌てすぎたためか、上手く駆け出すことが出来ず、躓いてしまい転倒。
草が生い茂る森の中なため、緑がクッションとなり怪我をしないで済んだが、そんなこと今の彼にはどうでもよく、すぐに立ち上がり逃げようとするが、腰が抜けてしまったららしく走ることは愚か、立ち上がることすら出来ない。
「ひっ、く、来んな……」
目には薄く、涙の膜が貼り、顔を真っ青にして地面に這いつくばりながら熊から逃げようとする。だが、そのような行動が無駄なことは、さすがの星壱郎も分かっているだろう。それでも、逃げずにはいられず、地面に這いつくばり、腕の力だけでも熊から離れようとする。
逃げる獲物を逃がすまいと、熊が咆哮を上げ、ドスドスと足音を鳴らしながら逃げる彼を追いかける。
走って逃げることが出来ないため、必死に腕の力だけで逃げていたが、熊にすぐ追いつかれてしまい、ヨダレが頭へとかかる。
汚いなどを考える余裕などなく、もう諦めるしかないのかと。恐怖で体を震わし、顔だけを熊の方に向け、目を大きく見開く。
熊が鋭く尖っている爪を振り上げ、咆哮と共に勢いよく振り下ろした。
風の切る音が聞こえ、星壱郎は咄嗟に目を閉じてしまった。すると、どこからか火の塊が飛んできて、熊の手を弾いた。
「───へっ」
いきなり目の前にいる熊が痛みに苦しみの声を上げたため、何が起きたのか分からない彼は目を開け、ただただ見ているしかできなかった。
そんな時、後ろから草を踏む足音が聞こえ、ゆっくりと振り返る。そこには、凛々しい顔を浮かべた、星壱郎とそんなに年が変わらない青年が彼の目に前に立つ。
「初めまして!! 俺の名前はカマル・セレーネー。君はこんなところで何しているんだ? しかも、見覚えのない服装で」
手を差し出し、星壱郎を助けた青年は安心感を与える笑顔を浮かべている。
外側に跳ねている赤い短髪、その髪と同じ色の瞳に、頭にはゴーグルが付けられている。
服は、空軍を主体としているデザインらしい。
深緑色の胸くらいまでの上着に、その下にはグレーの少し大きいワイシャツ。
腰には焦げ茶色のベルトが巻かれていた。
「あ、ありがとうございます。あの、ここはどこですか?」
「ん? ここは星屑の村付近にある森だな。まぁ、付近と言っても、ここから星屑の村までは、歩いて数時間かかるけどな」
「え、それは付近とは言わないんじゃ……」
「それもそうだな!!」
「はっはっはっ」と笑いながら星壱郎を立たせ、興味深そうに彼をじっと見つめる。
「え、なんですか?」
「いや、やはり見覚えがないなと思ってた。お前は誰だ? どこから来た? それに、その目………。まさか、召喚士なのか?」
「え、目? 召喚士? えっと……。俺の名前は神咲星壱郎。白須町にある自宅から、なんかよくわかんない方法でここに移動されました……。あの、それよりさっきの化け物熊は……」
「ん? 化け物? さっきのは普通の熊だぞ? ただ、少し体が大きかったが……。あれくらいなら至る所に住んでいる。驚くこともないだろ」
そんな話をしていると、カマルの後ろで痛みに苦しんでいた熊が動き出し、頭の横まで広げ、ヨダレを垂らし、怒りを露わにして襲いかかろうとする。
「ひっ?!?!」
「おっと、獣に食われる最後はごめんだぜ。悪いが、今日の夕飯になってもらう!!」
そう口にすると、カマルは拳を握り星壱郎の前に立つ。そして、右手を顔の横後ろまで引き、したり顔を浮かべ、熊の腹部に向けて繰り出す。その手には、赤い炎が纏われていた。
「
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