召喚魔術
手を振り、カマルは熊をドスンとフォンセの隣に置き、ルーナと同じく目を輝かせながら、焼かれている魚を見始める。
香ばしい匂いがたちこめる中、星壱郎は今の現状に唖然としていた。
「まさか、ここって俺が書いた小説の中……?」
顎に手を当て、顔を青くしながらも頭を動かしている。すると、フォンセが星壱郎に指をさしカマルに声をかける。
「ん? おいカマル。後ろの青年は誰だ?」
「熊に襲われていたから助けたんだ。名前は神咲星壱郎って言うらしいぞ」
「聞き慣れない名前だな」
そう口にすると、フォンセは鋭い瞳を星壱郎に向ける。その視線に、少し戸惑いを見せる星壱郎だったが、固唾を飲み、意を決して問いかけた。
「あの、もしかして貴方達は、冒険者ですか?」
「あぁ、そうだ。俺達は冒険者ギルドに入っている。それより、お前のその瞳。召喚士か?」
「い、いえ、多分違うと思うんですが……」
「だが、その瞳を持っているということは、召喚魔術を使えるはずだ。いや、瞳だけで判断するのは
「え、似非なんて……そんなことないと思いますけど……あの、無いですよ……きっと……」
よく分からないあやふやな返答をする星壱郎に対し、フォンセは首をかしげ眉を顰める。
怪しむような目を向け、彼がどのような存在なのか見定めていた。その目が鋭利の刃物のように尖っているため、ずっと家の中で小説を書いていた星壱郎にとって恐怖そのもの。冷や汗を流し、何も出来ず固まっていた。
そんな2人など気にせず、カマルとルーナは美味しそうに煙を出し、水分を滴らせている魚を今か今かとじぃっと見ている。
「…………ひとまず、カマルが連れてきたということで大目に見よう。なにか怪しい動きをすれば、ここに風穴が空くことになるから気をつけろよ」
「は、はい……」
フォンセは自身の
「こ、こんなに荒い性格にしなければよかった……」
※※
「なるほどな。つまり、お前が居た世界は、ここの世界軸とは異なる場所ということか。そして、よく分からんまま、この世界に連れてこられたと」
「は、はい……。もっと詳しく説明したいのですが、俺も何がなにやら……」
星壱郎は、フォンセに今までの出来事を掻い摘んで話した。だが、『貴方達は自分の考えた小説の登場人物です』とは、さすがに伝えることが出来なかったため、そこだけは伏せていた。
「なら、星壱郎は他の奴らの召喚魔術によってこちらの世界に迷い込んだ召喚獣的存在か?」
「それも考えられるが、見たところ普通の人間だ。その線は低いだろうな」
カマルは魚を食べながらそう問いかけたが、フォンセがそれをオブラートに包みながら否定し、ルーナに焼けた魚を渡しながら、再度星壱郎に問いかけた。
「パソコンからこちらの世界に来たと言っていたな」
「はい」
「その前に、何か魔法陣みたいなものを見なかったか?」
「い、いえ……。本当に、真っ白な画面からこちらに来た感じでした……」
「そうか。なら、召喚魔術の線は無くなったな。召喚魔術を使う場合、必ず魔法陣が必要となる。それを見なかったということは、違う方法でこちら側へと来てしまった可能性が高い」
考えをまとめながらフォルセは、魚を手にし星壱郎に渡した。それを素直に受け取り、目を伏せ不安げに手元の魚を見つめる。
「…………今は分からないことが沢山あるが、これから知っていけばいい。お腹すいているのなら、今はしっかり食え。腹が減っては戦ができぬ。何があってもいいように事前準備だけはしっかりしておけ」
「あ、ありがとうございます」
見た目はきつそうに見えたが、本質は違うようで、すごく優しく面倒見の良いお兄さんタイプだ。
「あ、あれ。あの、フォンセさんの分は?」
「あ? 元々3人分しか無かったからな。気にするな」
「え、でも……」
「俺はカマルとルーナから少しだけ貰うから、気にすんな」
フォンセがそう言うと、2人は顔を見合せ満面な笑みを浮かべた。すると、食べかけの魚を2人同時に差し出し「「はい、あーん」」と楽しげに食べさせようてしている。そんな2人の様子を、少し照れたように頬を染め「や! め! ろ!」と押し返していた。
そんな3人のやり取り見て、星壱郎は優しく目を細め、魚が刺さっている棒をキュッと握る。
「ここは、俺の理想が詰まった、世界……か」
その呟きは3人の楽しげな声にかき消され、星壱郎は青く広がっている綺麗な空を見上げた。
口元には薄く、笑みを浮かんでいた。
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