12/08 : クリスマスカード

 仕事帰りに簡単な買い物を済ませ、保育園から娘をピックアップ。風呂の湯を沸かしている間に、玉ねぎとベーコンを炒める。鍋に湯を沸かして、小さめに切ったニンジンとジャガイモを投入し、沸騰したら火を弱めて炒めた玉ねぎとベーコン、乱切りにしたキャベツも放り込む。顆粒コンソメを加えてあとはしばらく煮るだけ。


 そろそろ風呂に、とダイニングテーブルを見れば、娘がいつになく真剣な顔で赤い画用紙と向き合っていた。覗き込んでみると、半分に折られたその上半分には、折り紙を切り抜いて作ったらしい、クリスマスツリーらしきものや、黄色い星が貼り付けられている。

「よくできてるじゃないか。クリスマスカードか?」

「うん」

 頷きながらも、視線は紙の上に向いたままだ。今度は白い画用紙を切り取って、画用紙の下半分に貼り付けている。色鉛筆を取り出して、真ん中に大きな丸。その上にはいくつもの赤い丸が並べられていく。その他には茶色い塊。

「クリスマスケーキとローストチキン?」

「そう、じょうず?」

「ああ、上手に描けてる」

 淡い色の髪の毛をわしゃわしゃと撫でてやると、満面の笑顔を浮かべる。

「はい、どうぞ」

「おや、ありがとう。ずいぶん上手に描けてるから、額にでも入れて飾ろうか」

 我ながら親バカだと思いながらも、緩んだ顔でそう言うと、首を横に振る。

「ちがうよ。さくちゃんにだよ」

「え?」

「しょうたいじょうなの。おとうさんから朔ちゃんに渡してね?」

「招待状って、何の?」

 呆気に取られてそう尋ねると、何を自明な、とでも言わんばかりにまるで大人のように両肩を竦め、呆れたように眉根を寄せる。

「もちろんクリスマスパーティの」

「……どこの?」

「おうちのに決まってるでしょ」

 ちゃんと宛名も書いてね、と念を押される。

「……朔さんにだって予定があると思うぞ」

「特にないって言ってた。いつもおうちでのんびり映画を見たり本でも読んでるって。だからね、一緒にごちそうを食べて、映画を見ようって約束したの」

 いつの間に根回しまでされているのか。隣人の女子大生は年頃の娘さんのわりにはかなりインドア派だから、クリスマスでも一人で過ごしているのはまあありそうではあったけれど。

 ふとベランダで月を眺めていた横顔が脳裏に浮かぶ。


 静かで穏やかで——今にも夜の空気に溶けていってしまいそうな。


「本当に来てくれるかねえ」

「ちゃんとしょうたいじょうを出せば大丈夫だよ。まだにしゅうかんもあるし。じぜんによやくをおさえておくのが重要って、先生もいってた」

「……エリちゃん、先生にまさか朔さんのことを話してる?」

「だって先生も知ってるし。頼りになるお姉さんだねって信頼度もばつぐんだよ!」


 そういえば、何だか最近は物問いたげな視線を感じるような気がしていたが、気のせいではなかったらしい。思わず額を押さえると、娘がほんの少し困ったように彼の顔を覗き込んでくる。


「エリ、なにか間違えた? 朔ちゃん、おとうさんと一緒にいると楽しそうだから、クリスマスも一緒にいられたらきっと楽しいと思ったんだけど」

 その言葉に思わず目を見開く。まじまじと見つめると、エリは真剣に見つめ返してくる。彼とは似ていない、とても透き通った、懐かしくて愛おしいその色で。


「一緒にいると、楽しいことが二倍でお得だよ?」

「……そうだな」


 本当に、彼女にとってもなのか、未だ確信は持てなかったけれど、それでも、招待状を渡してみるくらいはいいのかもしれない。


 クリスマスの奇跡にほんの少しだけ期待して。

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