12/05 : モミの木のクリスマスツリー

 ピンポーンと相変わらず間伸びしたチャイムが聞こえた瞬間、それまで手元のカードゲームに夢中だったエリがぱっと顔を輝かせて玄関へと駆け出していく。彼女はそのまま玄関の鍵を開けようとするその肩を掴んで引き留めてから、インターフォンの通話ボタンを押した。


 本当はその必要はないと、そういう約束だったので。


「どちらさまですか」

さくちゃん、おとうさんだよ?」

 何の迷いもなく確信しているまっすぐな眼差しに、ああなるほどエリもなのか、と彼女は一人で納得する。

「だとしても、ちゃんと確認しないとね。約束したでしょ?」

「はーい」

『朔さんの言う通りだぞ。確認もせずに玄関を開けちゃいけないとあれほど——』

 始まった小言には構わず、その声を聞くなり小さな天使は全速力で玄関へと駆け去っていく。あっさりと鍵を開けて、何のためらいもなく、父親の胸に飛び込もうとして、だがその動きがぴたりと止まった。

「どうしたの?」

 そう尋ねて、けれどエリの視線の先を追って、その沈黙の理由を理解する。それが、すぐに破られるであろうことも。

「すっ、ごーーーーい!」

「エリ、ちょ、声でかい!」

 慌てた様子で家主が巨大なものを抱えたまま玄関をくぐって扉を閉める。その肩に載っていたのは、なんとモミの木だった。どう見ても、明らかに本物の。

「……それ、そのまま持って帰ってきたんですか?」

「いや、お店でちゃんと新聞紙にくるんできましたよ。でもゴミになるから一階で開封してきただけ」

「すっごいすっごい。本物のクリスマスツリーだぁ!」

 たいへんなはしゃぎっぷりに、けれどその理由もわかる気がした。見慣れたフェイクのクリスマスツリーと違って、本物のモミのその木は比較的小ぶりだけれど、それでも葉がわさわさと茂っていて、なにより森の匂いがする。

「なんでまた本物を? どこで手に入るんです、こんなの?」

 思わずこぼれた問いに、隣人はニッとなぜだかやたらと楽しげに笑う。

「某北欧家具量販店で毎年この時期になると販売してるんですよ。わりとお手頃価格で。クリスマスが終わったら引き取ってくれるから、しまっとく必要もないし、一度はやってみたくて、植木鉢だけは事前に購入しといたんです」

 言いながら後ろ手に鍵を締めて、部屋の真ん中に置かれていた謎の植木鉢にその木を差し込む。それは、驚くほどぴったりとおさまって自立した。


「まあ、一年に一度くらい、家の中に森ができるのも悪くないでしょ?」

「その発想が既に謎ですけど」


 そう言いはしたけれど、娘を抱いて、てっぺんの星を飾るその横顔が、彼の娘と同じくらい明るく輝いていたから、まあそれでいいのか、と思うことにした。


 日々お疲れのサンタには、きっと森の癒しが必要なのだろうから。

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