第245話 開拓団《ラドサ》の未来

 アリーシアさんはある怪我が元で不妊になってしまった。そんなときに王都近くのある村で、当時流行った伝染病で親を失った孤児たちと出会った。縁者からは里親になるのを断られ、養子として迎え入れて育ててることにした。

 その件があって以来、孤児に出会った時は一時的に生活の面倒を見るようにしていた。

 しかし出会った孤児を全て受け入れるのはさすがに無理がある、伝手つてを最大限に使って里親となる人物を探したりしていたそうだ。もちろんいつでもアリーシアさん自身が養子にすることが出来るように書類も準備していた。


 状況的には辻褄を合わせることは可能の様だ、あとは書類だけと言う事か。

 そしてその準備していた書類は、辺境伯様が保管していた。アリーシアさんのサインは力技偽造でなんとかするらしい。


「でも、先にアリーシアさんが養子にした… 義兄弟?と顔を合わせたらまずくありませんか?」


「問題無いじゃろ。どちらも分別のある大人じゃし、子供もおるくらいじゃ。ソーヤがには、すでに二人が自立した後じゃからな。」


 というのも、最後に養子にしようとしていた時期はあの魔獣災害の直後の事らしい。父親を失った孤児を迎え入れようとしたが、彼らに縁のあった職人が引き取って育てることになったそうだ。


「わかりました。よろしくお願いします。」


 こうしておれはアリーシアさんの最後の息子と言う事になった。

 まだ今は)だけどね。

 団長がサクラさんに話しかけた。


「と言う事でだ… サクラさん。

 一応ドージョー家の一員という立場もあるだろう。報告と確認のために、当主宛にソーヤとの結婚についての手紙を書いておいてくれ。ドージョー家としてもいろいろ考えなければならないことも有るだろうからな。」


 そうだサクラさんは直系の一人娘だった。

 本来なら婿養子を迎えて… 単純にという問題じゃなかった。ゴーロウさんはドージョーの当主として後継者問題も考えなければいけないからなぁ。


「もし後継者問題で何かあれば、辺境伯からも助力があるだろうから心配ないと思うよ。分家から養子を迎えるという手もあるだろうしね。」


 分家? アマートさんの家族の中から迎え入れるのか? それともまだほかに分家があるのかな?


「何年先になるか分からないが、聖公国やつらの問題が片付けば二人で領都ラドに戻ることも可能だろうしな。

 あとは… ビラル爺、ジーン。領都ラドとの連絡手段の件だが、やはりファルコを使うことになりそうだ。ドゥラから雛を入手する。調教についてだが誰か心当たりはあるか?」


「そうじゃのぅ… やはりクラウトに来てもらうかのぅ。ジーンそれでいいかの?」


「ゲッ! ク…クラウトの爺ですか…」


 一気にジーンさんの顔が青ざめる。そんなに怖い人には見えなかったけどなぁ。


「以前話していたように… ファルコの成鳥を導入して、ドゥラ経由の連絡ではだめでしょうか?

 で…でも雛から育てたとして、領都ラドまで直に連絡をするまで育てるには…

 く…訓練期間もかなり長くなってしまいますし。クラウト村長も、そんなに長くドゥラ村を離れるわけにはいかないと… お…思います。

 ファルコの世話だけなら俺だけでも出来ますから。」


 ジーンさんなんでそこまで必死なの?


「なんじゃぁ、まだクラウトが怖いんじゃな。まぁ仕方ないわい。

 じゃが、ファルコの成鳥の借り受けはおぬしが責任をもってしてくるんじゃぞ。」


 そうビラ爺が言い切ってニヤリと笑う。その横にいるジーンさんの顔色は青から白に変わっていたけどね。

 ビラ爺によると、昔クラウトさんの下についた時にかなり絞られたらしい。それ以来ずっと苦手意識が抜けないそうだ。


「とりあえず、ファルコの件は手紙で伝えておくことにしよう。ビラル爺頼めるか?」


「うむ、わしが一筆したためておくことにするかの。あとは連絡員も数人手配せんとな。人選は辺境伯様におまかせするしかないかの。」


「連絡員もそうだけど。ザック、開拓団ラドサの拡張の件についてもね。」


 ちょっと待って。そんな話をおれがきいていいのかな?

 そう思いながらベルデさんの顔を見る。


「ソーヤ君。そんなに不思議な顔をしなくてもいいよ。

 君にはやってもらうことがあるからね。」


「そうだ。ソーヤ、おめぇには一番重要な部分を任せることになる。

 開拓団ラドサの拡張で新たな開拓団員を迎え入れることになる。人数も最低でも今の倍、かなりの数になる。

 人員の選抜自体は領都ラドで辺境伯様が取り仕切る。その段階である程度は悪意のある人物は排除されるだろう。だがこちらに到着するまでに、入れ替わる可能性も排除できない。

 だからここに到着して受け入れる時に、危険人物かどうかを鑑定をしてもらいたい。

 わかってはいると思うが、聖公国やつらやその手先の可能性のある人物を紛れ込ませることは絶対にあってはならない。」


 確かにその通りだ。

 開拓団ラドサはこんな風に言うのもなんだが…

 まさに辺境中の辺境、しかも周囲の村ともあまり交流がない。

 そんな場所に開拓の人員が追加される。この機に工作員とかを送り込んでくる可能性は高いかもしれない。


「今まで鑑定を控えろと言っていたが、これから新たに開拓団ラドサに来る人物は全て鑑定してくれ。もし不審な者がいたらすぐに知らせるんだ。

 おれの話は以上だ。あとはベルナから話がある。」


「良いかしら? 最初にサクラさん。あなたにお願いしたいことがあるの。

 御懐妊がわかって以来マリーアンヌ様のお世話をお願いしていたけど、今後も続けてほしいの。この季節だから体調の変化には細心の注意払ってね。

 臨月になる頃には産婆、乳母も来てもらうことになるからそこは安心して。

 初産ですから、心細い事も有るはずなの。私でさえそうだったわ、それに不安があっても決して表には出さない方だからお願いね。」


「はいわかりました。」


「次にジーンへのお願い。

 悪阻つわりの時期はもう過ぎたようだけど、マリーアンヌ様の食事について今以上に注意を払ってほしいの。でもだからと言って毎回特別なものにしなくてもいいわ、サクラさんに様子を聞いて料理をお願いね。」


 ジーンさんは軽く頷いた。



 2日後、少しだけ冷え込みも緩くなりドルナルドさん達が領都ラドに帰る日になった。

 荷馬車には、連日作った練炭れんたんやシチリー、テポートを目いっぱい積んである。あの大量の乾麺や乾燥野菜・ミックススパイスはドルナルドさんのマジックバックに入っている。


「それでは、みなさん。今度は春先に来ますので。」


 開拓団ラドサ全員でドルナルドさん達を見送る。

 おれの横にサクラさんがそっと近づいてきた。サクラさんに気が付いたおれは彼女の笑顔を見る。

 サクラさんはおれの肩に身体を預け、その冷えた手をおれの手に重ねてぎゅっと握っていた。

 おれたちは手を重ね合ったまま、開拓団ラドサを出発して街道へと進む商隊を見送る。


 二人… 肩を寄せ合って…

 周囲にまだ雪の残るその場所から…見えなくなるまで…ずっと、ずっと。



 第八章 完


 --------------

 やっと第八章が完結しました。

 ここまでお読み頂き感謝いたします。


 後半は執筆時間の確保に難儀しました。いまだに時間が取れない状況が続いています。

 今後は週1回、土曜日に更新となります。

 新章は3/18から開始予定です。

 今後もよろしくお願いいたします。

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