第244話 養子
おずおずと2匹が部屋に入ってきて辺りを見回していた、尻尾は何かを期待しているかのようにゆらゆらとしている。
2匹は板張りの床をフンフンと嗅ぎながらいつもの寝床に向かっていく。やがてそこに敷かれている毛皮が懐かしい匂いを発しているのが判ると、勢いよく尻尾を振り出して2匹揃って甘えるような切ないような鳴き声を上げ毛皮に頭を擦り付けていた。
そのまますぐに2匹は母狼の毛皮の上で体を寄せ合って丸くなると寝息を立て始めた。
「今夜は2匹ともいい夢が見れるかな?」
寝てしまった2匹の様子を見て、ようやく肩の荷が下りたと実感する。恐らく野生にはもう戻れないだろうが、
そう思いながらベッドに横たわると心地よい疲労が全身を包んでいき、目を閉じて意識を手放した。
翌日は雪もやみ、朝から自衛の為の基本戦闘訓練。2時間もすると体のあちこちが痛みだす。覚悟はしていたんだけど弱音を吐きたくなってきた。
訓練後は簡易窯の中から母狼の遺骨を木箱に納め取り出して、団長の家の裏に生えている木の根元に埋葬する。余っている石材を墓石代わりに置くつもりだ。
雪を除けて現れた地面にスコップを突き立てる。60cmほどの深さの穴を掘り、遺骨の入った木箱を置く。箱の中には
蓋をしてから土を被せていく。埋め戻しが終わり石材を埋めた場所に被せるように置いていたら後ろで人の気配がした。ふり返ると子供達とサクラさん、それにトーラとシーマの2匹がいた。
「ソーヤさん、何をしてたんですか?」
サクラさんが不思議そうな顔で声をかけてきた。
「母狼のお墓です。2匹の母親のストライプウルフの遺骨を埋めていたんです。」
「トーラちゃんとシーマちゃんへの約束を果たしたのですね…。」
サクラさんにも母狼の事は、先日の解体の時に預ける前に話してあった。母狼が子を守るため命を失ったことを…
最後に置いた平な石材の上にもう一つ別の石材を立てて置いた。
これでいいかな?
そのまま2歩ほど後ろに下がるとトーラとシーマが左右に来て座りおれの顔を見上げる。2匹を交互に見てから、おれはお墓に向かって手を合わせた。
(トーラとシーマはしっかりと育てます…安心してください。)
振り返ると子供達もサクラさんも両手の指を組んで祈っていた。
そうか… この世界ではそういう祈り方なんだ…
改めておれも手を合わせ指を組んで祈った。
それから数日は訓練と日々の作業に追われる毎日だった。
味噌蔵の管理、練炭づくり、炭焼きの準備、
ジーンさんとドルナルドさんには、おれがいなくてもスライムくん4号がちゃんと水抜き乾燥をしてくれると言ってあったのに何度も呼ばれて意見を求められていた。
気が付くと野菜もドルナルドさんが運んできた量の半分は既に乾燥野菜になっていたので、慌てて雪の下からケルルを掘り出す作業にも駆り出された。雪の下から掘り出したケルルは甘味があってものすごく美味かった。乾燥してもその旨味が失われなかったので一応高級品扱いにするらしい。
子供達は食堂でダルベさんが中心となって加工していた
さらに練炭づくりは、風呂場のスライムくん2号にお願いして型抜き後にすぐに水抜き乾燥をしてもらっていた。おかげで、テポートの澱粉糊を使う量もかなり減らすことが出来ていた。
数日後、バルゴさんとザリオさんが街道に残る雪の確認をしてきた。問題がないと団長とドルナルドさんに報告をする。その報告を聞いたドルナルドさんの顔が何故だか微妙な感じではあったけど、2日後に
「さて、ドルナルドさん達が明後日に
不足している物があったら申し出てくれ。」
「金物関係は今回持ってきてもらった分でとりあえずは足りそうだ。」
「すまない。おれ自身も歯止めが効かなくなってた。
食品関係は追加してもらわないと…さすがに新商材の試作と製造で使いすぎた。」
「わかった。他にあればドルナルド氏の出発前までに教えてくれ。
あと、ソーヤ。少し残ってくれ。
理由は判っているよな。」
また居残り? 理由… まぁ、心当たりだらけなんだけど。
食堂に残ったのは、団長・ベルナさん・ベルデさん・ビラ爺・ジーンさん、そしておれとサクラさん。
この時点で…
「さて、まずソーヤとサクラさん二人に話だ。
まずソーヤとサクラさんが一緒になるにあたって、ソーヤには正式な王国の住民として登録が必要になる。
この手続きは約80年ぶりになる。前回の手続きはあのサーブロ氏だった。
この意味は分かるな。」
「はい。」
「ここからは、ベルディナール様が説明する。」
「ソーヤ君。基本的に使徒様については各国の協定で不干渉という不文律があるんだ。そして王国住民として保護・登録した場合には、各国に使徒様を国民に迎え入れたということを通告しなければならない。当然聖公国にも通告は行われることになる。つまり君の居場所が知られることになる。」
まずいな。一番知らせたくない相手に…
「だけど、一応それについてはある方法で回避することが可能なんだ。もっとも辺境領の一部では君の存在はかなり知られてしまっているけどね。
その方法なんだけど、孤児として誰かの養子になる方法がある。」
「養子ですか。でも調べれば簡単に露見してしまいませんか?」
「そこでなんだけど… 養子になった後に旅に出ていて、養母が死んでしまった後に…ここに戻ってきたという形にする。その養母はアリーシアさんだったと言う事にして。」
「でもベルデさん。養子になる際の書類に整合性が取れないのでは?」
「そこら辺は問題ないように考えてある。ここ20年近く悲しいことに孤児が多く発生していたからね。書類についても辺境伯が上手くやってくれる。」
「つまり、アリーシアさんの養子でビラ爺が伯父…ですか?」
「そう言う事になるのう。わしが伯父では嫌かな?」
「いいえ、そういう訳では… 素直にビラ爺の養子ではだめなんですか?」
「実はな… アリーシアは怪我で子供が作れん身体になってしまっての。それもあってずっと昔から孤児を養子として向かえ入れておるんじゃ。書類上は4人目じゃな。王都と帝国に一人ずつ、もう一人は病気で死んでしまっておるがの。」
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