第243話 乾燥食品

 思いついた事というのは、先ほどの解体でスライムくんが血を分解処理した事がヒントになっていた。

 解体で出るはずの血を処理したときに、血液内の成分だけを選択的に分解している事。そして、風呂場で洗濯スライムくんがしている衣類の生地を傷めずに汚れだけ分解処理が出来ていることから思いついた。

 もしかしたら…スライムくんが

 【フリーズドライみたいに水分だけ分離出来るかも】

 という言う事で…さっそく念話で確認してみた。


[スライムくん、ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかな?]


[シトサマ…ナンデショウカ…]


 サクラさんがお皿やボウルを次々樽に入れていて、うねうねと動きながら汚れが落ちて綺麗になったお皿やボウルがスライムくんの表面に浮き上がってくる。その食器を回収して樽の脇の作業台に積み重ねている。


[スライムくん、水だけ取り除くことってできるかな?]


[ワカラナイ…ミズダケ…ヤッタ…コトナイ…]


 そうか、やったことないのか… なら仕方ないなぁ。

 残念だなと思いつつ、頭の中で茹で野菜から水分が無くなってカラカラに乾く場面を想像したが…あきらめ…


[シトサマ…ソレナラ…デキルヨ…]


 いきなりスライムくんからの念話が頭の中に響いてきた。


[えっ? 出来るの?]


 そう言えば、以前スライムくんはおれのイメージした女神像やグローブの形をとる事が可能だった。もしかして…さっき考えていたイメージが伝わったのか?


[シトサマノ…カンガエタコト…ワカル…]


 出来るんだ! フリーズドライに近いものが作れる可能性が!!


 食器洗いが終わりサクラさんが食器を食堂の戸棚に運んでいく。スライムくんの樽が開いたので野菜の下茹でをしていたジーンさんとドルナルドさんに話しかけた。


「ジーンさん! ドルナルドさん!

 完全に水分を抜いて乾燥できる方法が見つかったかもしれません!!

 で終わった野菜を少しください。」


 二人は作業の手を止めて怪訝な顔をしておれの方に振り返った。


「ソーヤ、何をするつもりだ? こんな場所で乾燥なんか出来ねぇぞ。」


 ジーンさんから小皿に取り分けてもらったキャベツのようなケルルとほうれん草のようなスピッチを受け取る。

 ケルルはあらかじめ一口大に切り分けて下茹でをしていたのでこのままで、スピッチは一株丸ごとだったので、軽く絞って水気を切って3cmほどに切り分け皿に乗せた。

 そのままスライムくん入りの樽の中に。


「ソーヤ! 何てことをするんだ!! 食材を粗末に扱うな!!」


 ジーンさんが烈火のごとく怒り出した。ドルナルドさんの表情にも怒りの色が浮かんでいる。


「説明するより見てもらった方が早いと思いまして。今樽に入れた食材は無駄にはなりませんよ。」


 スライムくんには念話で指示をしていた。うねうねと動きながらケルルとスピッチを包み込む。半透明のスライムくんの中で浮いているが、その大きさが徐々に小さくしぼんでいく。

 まだ怒りが治まらないジーンさんとドルナルドさんが怪訝な顔をして樽を覗き込んでいたが、やがてその表情が驚きへと変わっていく。


 スライムくんの動きが治まり、表面にパリパリに完全に水分が抜けたケルルとスピッチの塊が浮き上がってきた。見た目はあっちの世界のフリーズドライと遜色がないように思える。

 シーンさんとドルナルドさんはこれでもかというくらいに目を見開いている。

 スライムくんの表面に浮いてきた乾燥野菜を皿に拾い上げ、それを二人の目の前のテーブルに置いた。


「スライムくんが食材の乾燥が出来ると言ったので試してみました。これなら保存も効きますし、お湯や水で戻せば…」


 そう説明している最中に、二人は先を争って乾燥したケルルとスピッチをつまみ上げてしげしげと眺めて匂いを嗅いでいた。


「変な匂いもしない。完全に乾いているな。」


「スライムなら完全に分解してしまうと思っていたのですが、これは…」


 二人はそれぞれの感想を口にする。


「この方法を使えば量産も問題ないです。

 ただ領都ラドではスライムに対する忌避感が強いでしょうから作り方を公開するわけにはいかないでしょうけど。」


「そうですね。それに先ほどまで食器を洗っていたスライムですので、正直あまりいい気はしないですね。

 とりあえずお湯で戻して匂いや…食感の確認をしないと。」


「だな。すぐに準備する。」


 ジーンさんが小さな片手鍋を二つ調理器具の棚から取り出しテーブルに置く。その中に乾燥しきったケルルとスピッチをそれぞれに入れて、シチリーの上のポットからお湯を注いだ。

 鍋の中の乾燥野菜はすぐにお湯を吸込んで元の大きさに戻り始めた。


 時間は乾燥麺と同じ時間4分を目安にして、鍋なのでお湯が冷えることも考慮に入れて何回かに分けて確認した。


「変な匂いはしないな。味も問題ない。」


「そうですね。

 長時間戻しても問題は無さそうです。むしろ茹でる時よりも食感は安定していますね。」


 匂いも味も問題が無いと解ると二人のスイッチがまた入ってしまった。

 下茹でなしの場合、他の野菜(キャロやニオラ・ニオパ)、肉まで準備し始めた。


「樽が小さいな。もっと大きな樽があったはずだ。風呂場のスライムも持ってくるか?」


 ちょっと、それは止めてください。


「ジーンさん。風呂場から持ってくるのは止めてください。

 スライムくんならもう一体います。すぐに連れてきますから。」


 分裂したスライムくんの職場がすべて決まってしまった。一時的に保存箱に避難してもらっていたスライムくんを連れてくる。

 スライムくん…増えたから念話だけど呼び名に困るな。風呂場にいるスライムくんは1号と2号。炊事場のスライムくんは3号。保存箱のスライムくんは4号にしておくかな?

 念話で確認してみたけど、彼らスライムくんには個性がないみたいだけど便宜上ね。


 炊事場に戻るとジーンさんがさらに大きな樽を用意していた。保存箱からその大樽の中にスライムくん4号を移動させる。

 そうだ、あと水抜きの穴も…明けておかないと。


 スライムくん3号の樽と4号の樽の底近くの側面に穴を開けて木栓をしておく。あとでダルベさんに樽を置く台を作って貰わないと。


 結局その日は夕食の準備をするまで、ジーンさんとドルナルドさんの試作品づくりに付き合わされてしまった。


 夕食後、トーラとシーマを連れて家に戻る。

 トーラとシーマには居間で待っていてもらって、マジックバックから母狼の毛皮を取り出して2匹の寝床に敷く。

 寝室のドアを開け2匹を呼ぶとすぐに近寄ってきたが部屋の入り口で急に立ち止まり…


 ヒューン ヒューン  キューン キューン


 と甘えるような鳴き声を上げ始めた。


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更新がかなり遅れました。

次回の更新も遅くなりそうです。

すみません。。。m(。≧Д≦。)m

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