第242話 具材

 他の人たちも次々に食べ終わる。そして一様に笑顔だ。その中でただ一人思いつめた顔をしていた冒険者たちの世話役(騎士団の分隊長)が一気にまくし立てた。


「ドルナルドさん! この商品はいつ売り出すのですか?

 絶対に買います。必ず買います!

 もうあの味のないスープと硬い黒パンの野営食には戻りたくありません!」


「そう言われましても… まだまだ改良の余地があるので、すぐにとはいかないのですよ。これに合わせる日持ちする具材も考えなければなりませんし、味の種類ももう少し増やしたいですし…」


 そうドルナルドさんが答えたので、がっくりと項垂うなだれてしょんぼりとしていた。


「でも季節外れの大雪が落ち着くまでは、開拓団ここでどんどん改良していくつもりです。当然、領都ラドへの帰路での野営では夕食にお出ししますよ。」


 その言葉で冒険者は拳をかかげて大喜びする。

 その様子を見ていたジーンさんが、目くばせで合図をしてきた。どうやら裏の炊事場まで来いと…その目が語ってた。もう少しぐらいゆっくりさせてよ。

 仕方がないのでジーンさんの後について炊事場に行った。


「ソーヤ、気が付いていると思うが。基本的なメーンの製法、スープの製法は目途が立った。

 残るは…具材の件だ。普通に別で調理したものを載せてもいいんだが、何かアイディアを隠していないか?」


 隠すとか、人聞きの悪いことを言わないでください。


「隠しているつもりはありませんけど、いくつかありますね。」


「どんな物だ? 作り方は?」


 がっしりと肩を掴まれてシェイクされてしまう。あんまり揺らさないで…ミードが回り過ぎちゃいます。


「ちょっと落ち着いてください… はぁ。

 領都ラドの露店で見かけたんですけど、干し野菜を売ってましたよね。あれって使えませんか?」


「干し野菜か… だが、干し野菜は収穫してからすぐ干しているから火が通っていないぞ。干し野菜なら日持ちはするな… そうか野菜スープで戻すと言う事か! だが、沸騰した野菜スープだとメーンが戻る前に野菜に火通り過ぎて…」


 う~ん。ちょっとおしい。

 その方法でも可能とは思うけど、具材に火が通りすぎるのは間違いが無さそうですね。


「干し野菜なんですが、あれだと水分もまだかなり残ってますよね。下茹でした野菜を干すのはどうですか?」


「それだと、乾く前に傷んじまう。」


「ジーンさん、乾く前に傷むのは温度が高いからですよね。

 幸いなことに今は冬です。出しっぱなしだったメーンもそれでうまくいったんですから、試してみませんか?」


 ジーンさんは腕を組んで考えこんでいた。


「メーンとは水分量が全然違うが、やってみるか。

 そうだな… ニオパは茹でなくてそのまま乾燥もいいが、ケルル・スピッチはアク取りもしたいから茹でてからだな。」


 天然の環境でフリーズドライ風に加工したときにどうなるか次第。真空にする方法がわからないし、普通に寒風で水分飛ばすだけでどの程度のものになるかな?


「あと干し肉も細かくすればいい味も出てくるのでは?」


「干し肉を一緒に戻すとなると、時間に合わせてかなり薄く細かくしなきゃならん… そうなると食感は全く無くなっちまう。すでに粉末のスープではその方法も使っているしな。だからといって大きめにしたら、戻した時に芯まで戻るかどうかが問題になるな。」


「細かくしてまた固めるのはどうですか? 固めるための繋ぎが問題になりますけど。あるいは、肉じゃないけど肉っぽい食感の食材を代用するとか。」


 謎肉が作れれば最高なんだけど、あれって材料は大豆だっけ?


「今すぐには思いつかんな。最悪は燻製を薄く切ったり、腸詰をぶつ切りにして添えればいいか。香りの問題はあるが、燻製や腸詰なら日持ちがするからな。」


 領都ラド土産で生ハムっぽいのを買ってきたはずだけど、あれならそんなに強い香りはしていなかったけど。もう酒の肴で消費されてなくなっちゃったかな?


 しばらく準備をしているとドルナルドさんが炊事場に戻ってきた。


「いやぁ、やはり皆さんに食べて頂いてお話を聞くのが一番ですね。商品化の案が次々に湧いてきましたよ。」


 そう言えば随分と食堂が静かだな?


「食堂の方が随分と静かですけど、どうしたんですか?」


「皆さんなら、腹ごなしと酔い覚ましで周辺の除雪作業に行きましたよ。最低でも今日中に訓練場所だけは除雪するって言ってましたね。

 おや? 何をしているんですか?」


 また説明するのはめんどくさい。ジーンさんお任せします。あと、訓練場所の除雪は止めてください。明日から訓練再開確定しちゃうじゃないですか!


「あれ用の具材の試作だ。干し野菜の様に加工出来ればお湯だけで戻せるかもしれん。」


「なるほど、干し野菜ですか。確かに干し野菜なら日持ちもしますからね。」


「ドルナルドさん、肉の代りになるような食材に心当たりありませんか?」


「肉の代りですか… たしか帝国方面の商品でそんな話を聞いた事はあるのですけど。すぐには思い出せないですね。」


「そうですか。やはり燻製肉の薄切りを使うしかなさそうですね。」


 そんな話をしていたら食堂から使った食器をサクラさんが片付けて運んできた。


「食器洗っちゃいますね。」


「サクラさん。ちょっと待ってください。使った食器はそのままこの樽にお願いします。」


 そう言ってスライムくんの入った樽を指さした。


「ソーヤさん、なんですか? これ?」


「さっき解体していた時に出た血をスライムくんに処理してもらったら、分裂して増えちゃったんです。衣類洗いが出来るなら、食器洗いも出来るかと思って持ってきたんです。お風呂場にも洗濯スライムくんのたらいが増えてますよ。」


「そうですか。 …入れてみますね。」


 そう言ってサクラさんは恐る恐る数枚のお皿とスープボウルを桶の中に入れた。

 一応スライムくんには念話で伝えてあるから、汚れ以外は分解しないとは思うけど。


 4人で樽の中を覗き込む。置いた皿がゆっくりとスライムくんに包まれてふよふよと浮いているような見た目になっている。すぐに皿が次々にスライムくんの表面に浮き上がってきた。


「終わったみたいです。」


 そう言ってお皿を取り出して隅々まで… ちゃんと汚れが落ちている。大丈夫みたいだ。


「ほぅ… 食べかすも油汚れも完全に落ちているな。食器も傷んでいない。」


「忌避されているスライムをこんな使い方に…

 他でも害がなく使えるのでしょうか?

 使えれば食堂などに売り込むことも可能ですね。」


「お爺様の旅館でも使ってみたいですね。いつも洗い物が大変ですから。」


「でも、領都ラドでは心理的な問題が大きいのでは?」


 ふと思いついた事をスライム君に念話で確認してみた。



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すみません。

今まで以上に執筆時間確保が難しくなってきました。

暫くの間は更新が滞ります。

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