第241話 お客様の声?

 食堂奥の炊事場に顔を出してジーンさんに洗浄用のスライムくんを持ってきたことを話した。


「ジーンさん。実はスライムくんが分裂して増えたので、食器洗い用に炊事場に置かせてもらえませんか?」


「食器洗いのスライム? 風呂場に置いてあったやつか?

 逃げ出して食料を荒らすことは無いのか?」


「樽に入れてありますし、食べるのは汚れだけですから。

 今まで洗う時に出て来ていた細かい残飯も処理してくれますし。」


「わかった。しばらく置いてみて問題あるようなら別の所に置いてくれ。」


 何か言いたげなドルナルドさんが目に入ったので、さっさと食堂に戻りビラ爺のいるテーブルに座る。

 ミードのお湯割りを呑んでいるビラ爺にお礼を言う。


「ビラ爺、手伝ってくれてありがとう。」


「あの程度なら問題もありゃせんぞぃ。ソーヤも今日はゆっくり飲めばええ。」


 団長以下、団員や冒険者はすでにかなり呑んでいたようで、だいぶ出来上がっていた。テーブルの上にはポテチ(テポチかな?)や細長く切って揚げたフライドテポート、さまざまな味付けをされた ”赤さベビーな星スター” もどきが置かれている。

 目の前にバンブを切って加工した何かがあったが、手に取ってみたら中身はミックスソルト。調味料入れだった。


 なるほど、バンブならいっぱい材料があるしすぐに加工できる。木栓をしっかりすれば早々湿気る事もなさそうだ。

 よく見ると木栓が二重になっている。上蓋と中蓋か…ダルベさんが加工したのかな?


 子供達や女性陣は酒ではなく、ハーブティーや果実水を飲んでいる様だった。

 子供達が集まっている食堂の一角のそんな様子を見ていたら、アマル君と目が合った。

 フライドテポートの端を口に入れもぐもぐと少しずつ食べていたが、目が合った瞬間に咀嚼が止まり口の中に消えていくフライドテポートの動きが止まる。そしてしばらくするとおもむろに口を動かした。だいぶ早い咀嚼速度だ。

 まるで食事途中に驚いたバラーピカが口を動かすのを中断し、再び草を食んでいるように見えて思わず笑いそうになった。


 そのうちに子供達は外に遊びに出て行ってしまった、その後を追いかけるようにトーラとシーマも一緒にだ…。

 たぶん、また雪が降ったからまたソリ遊びでもするのだろう。風邪ひかないようにね…


 悪阻が落ち着いてきたマリーダさんもベルナさん達と一緒に試食をしていた。油分が多いから食べ過ぎない様にしてもらわないとね。


 気が付くとジーンさんとドルナルドさんも食堂に来ていた。どうやら試食の感想を聞きたいらしい。


「皆さん。味はどうですか? 私は間違いなく売れると思っているんですけど。特にこの2種類のテポート揚げ… 食糧庫に保管してあったマジョッカでも試しましたが、この味わいは出せません。テポートの供給さえ確保できれば…」


 そう言っておれの方にちらちらと視線を送ってくる。さっき言いたかったのはテポートの件か? でもそんなに見つめられても、雪があるから取りに行けませんからね。間違いなく遭難案件になりますから。


「この容器入りの細かい塩は是非ともほしいな。野営での食事がこれがあるだけで格段に変ってくる。手軽に味の濃さを変えられるのは画期的だ。」


 護衛の冒険者を取りまとめていた人がそう話した。


「この細い揚げ物もいいな。特にこの辛い奴が良い、酒のつまみに最適だぞ。」


 そうガースさんが言うと、バルゴさんとはじめとした開拓団ラドサの面々が頷く。

 ジーンさんは ”赤さベビーな星スター” もどきに蕃椒チリを練り込んだものを作り上げていた。確かに、後を引く味だと思う。


 ビラ爺がミックスソルトの容器を開け、手のひらにささっと出してペロリとなめた。そしてぼそりと一言…


〔ふむ、蕃椒チリの粉末を入れておけば、目つぶしに使えそうじゃな。〕


 何だかとんでもない言葉が聞こえたような気が…


「でもね、油分が多いのが気になるよのねぇ…」


 ベルナさんがそう言うと、お姉さま方は「そうそう」と相槌を打つ。確かに油分は気になるけど主食じゃないからそこら辺は過大な要求をしないで… そう思っていたらドルナルドさんは頷きながらメモに書き留めていた。


「確かにそうなんですよね。油を大量に使いますので、少量を作るだけで劣化した油を頻繁に交換するわけにもいきません。なるべく一度に多く作って…

 そうなると保管も考えないと、特に湿気の問題が… 常にマジックバックで保管しておくわけにもいかないですし。」


 湿気対策が必要になるのか… 待てよ… あるじゃないか湿気対策の物が!


「湿気なら多少はなんとか出来るかも知れませんよ。」


「それは! どんな対策ですか!!」


 ドルナルドさんがメモを持ったまま近づいてくる。圧が…ちょっと待って…


「最初に思いつくのがバンブ炭です。少し粗目に砕いて目の詰まった布袋の中に入れておけば湿気を押さえられると思います。材料も開拓団ここで揃いますし。

 あともう一つは… すみません。いろいろと問題が有りそうなので団長と相談してからですね。」


 団長が怪訝な顔をしておれを睨む。

 仕方がないじゃないですか。生石灰の除湿剤はさすがに不味いです、何しろテポートの毒抜きと密接に絡むんですから。しかも目つぶし粉とかで使ってるらしいですし。


「わかりました。あとでバンブ炭を頂けませんか?」


「ドルナルド、そろそろいいか?」


 ジーンさんが何かを入れてあるスープボウルを運んできた。中に入っていたのは即席めん、まだお湯は入っていない。スープボウルの底には粉末状の…粉末スープの素? ジーンさんどうやって作ったの?


「最後の試食です。今までにない保存食です。熱湯を入れて5分待つだけです。熱湯を注いだら、小皿で蓋をしてください。小皿の上の刻みニオパ《ネギ》は食べる前にお好みで入れてください。」


 おれも駆り出されて、シチリーの上でシュンシュンと音を立てているポットの熱湯を注いで回る。


 ジーンさんが調理用の砂時計で時間を測っていた。


「皆さんどうぞ。

 少しかき混ぜてから食べてみてください。味が薄いと思うのでしたらミックスソルトで調節してみてください。」


 ジーンさんの合図でボウルの上の小皿を降ろす。

 おぉ!! ちゃんと出来上がっているよ! ちょっと感動した。

 残念ながら具材は刻みニオパ《ネギ》だけだけどね。フォークで少しかき混ぜてからまずはスープを一口… あっちで慣れ親しんだインスタントラーメンのスープだよ。鶏ガラスープで塩味も好みの濃さだ。

 今度は麺を… ちゃんと戻ってるよ。

 一口… 3人で試食したとき以上に完成度が上がって、ちゃんとコシも残っている。美味い!

 そのまま一気に食べてスープも飲み干し、ほっと一息ついて見回した。



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気がつけばはやいもので、初投稿から1年経過していました。

書き始めた頃には、正直1年間続くかどうか不安でしたが

読んで頂いた皆様のおかげで、なんとか続けることが出来ました。

今後ともよろしくお願いいたします。

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