第152話 出張4

 挨拶に向かった村長の家では驚いたことにワンオを飼育していた。村でわざわざワンオヌニャオを飼育することはあまりない。余裕がある貴族や商家、若しくは狩人と言った職業の人ならは可能性はある。村長は元狩人なのだろうか?


「ローク・ドージョー食品商会のドルナルドと申します。」


「カジリス商会のベンリルと申します。」


「これはご丁寧に。わたくし村長のチップデルと申します。この時期にこんな僻地までどのようなご用件で?」


 ドタドタドタ… 


「とうちゃん、ガルルの訓練に行ってくる。」


「ちょっと待ちなさい、デニー! すみません、礼儀のなっていない息子で。」


「元気なお子さんですね。訓練とはあのワンオですか? 彼は猟師になるつもりなんですか?」


「いいえ、先日ここを訪れた方が、ストライプウルフを使役してましてね。そのストライプウルフの散歩に付き合ってからテイマーになると言い出しましてね。困ったもんです。」


「あぁ… ソーヤさんの事ですね。実はカジリス商会の会頭が彼なんです。商会の件で打合せがありましてね、開拓団ラドサに向かっている途中なんです。」


「彼が商会の会頭… あの若さでですか… でも彼なら納得ですね。

 彼のおかげでこの村も助かっているんです。内臓肉の下処理の方法を惜しげもなく私どもに教えてくれたおかげで、村の食糧事情がだいぶ改善しましてね。」


「内臓肉の処理法ですって? その処理した内臓肉を頂くことは出来ますか!」


 ドルナルド氏の目の色が変わった。


鬼兎オーガラビットではありませんが、グリンデアなら今朝村の猟師が仕留めて戻ってきましたから。それでよければ。」


「ぜひ! ぜひお願いします! お代は払わせていただきますので。ベンリルさん今日はこの村に宿泊しましょう。こんな機会は見逃せないです。」


「同行させていただいているので、そこはお任せいたします。ただ、宿はどうします?」


「お泊りになるなら、隣の空き家をお使いください。あとお代も結構ですよ。処理をしても内臓肉の足は速いですから。残ったらガルルの餌になるくらいですし。」


 思いがけず、手前の村で足止めとなってしまった。しかしこれも経験ですね。


 4人で村長宅での夕食に招かれた。料理はもちろん内臓肉。

 初めて頂いた内臓肉は様々な部位が使われていた。心臓や肝、腸や腑分けまでそれぞれの部位に合わせた味付けが為されていた。正直一口目までは恐る恐るではあったが、ひとたび口にすると何とも言えない味わいがある。

 しっかりした肉質で噛むたびに旨味が出てくる心臓、肝は細かくして香草のスープで煮込まれ臭みも無くそれでいて濃厚。直火で焼かれた腸は弾力のある独特の食感だが周囲の脂が咀嚼するたびに溢れ出る。腑分けは柔らかい上質な肉そのもの。

 驚いた。もうこれはクワルの名物といっても過言ではない。これを目当てに訪れる人々も出てきそうだ。


「この前の鬼兎オーガラビットも旨かったけど、これもいいな。内臓肉を使うようにあって騎士団の野営食の質が上がったと思ったけど、まだまだ上があるなぁ。」


「あ~… どこかでお見かけした様な気がしてたのですけど、先日お見えになっていた騎士団の方でしたか。騎士団をおやめになったんですか?」


「休暇を取って里帰りです、そのついでに商会の護衛を受けたのです。私と弟は開拓団ラドサ出身なんですよ。」


「ほぅ、開拓団ラドサ出身でしたか…

 そういえば… もしかして、あなた方のお父上は ”英雄ザック” 様でしょうか? お顔だちといい、雰囲気が…」


「親父が来た時は、それを言わないでくださいね。あの顔つきでも、かなり恥ずかしがり屋ですから。」


「いいえ、今の私の命があるのもあの方のおかげですから。」


「しかし、内臓肉がここまでの料理になるとは…

 食品商会に携わる者として恥じ入るばかりです。これを機にクワルにも宿を作ってみてはいかがですか? ご希望ならローク・ドージョー食品商会が協力させていただきますので。」


「そうしたいのも山々ですが、いろいろな魔道具が多く必要ですから。とてもこの村の資本ではどうにもなりませんね。」


「そこは私に任せていただけませんか、カジリス商会もまだ発足したばかりですが、村や、商家などに魔道具などを貸しだすのが私どもの仕事なんです。

 もちろん今すぐとは申しません。買い取るよりも格段に安く設置が可能です。開拓団ラドサでの要件が終わりましたら、また寄らせていただきますので詳しいお話はその時に、ぜひご検討ください。」


「そうですね、その時はぜひお話を聞かせてください。」


 いきなりチップデル村長とビジネスの話になってしまったが、やはり需要は大きい。実績を積んでいけば間違いなくこの商会は化ける。そう確信した夕食だった。




--------------


 だいぶ日も傾き、薪の量も減ってきた。煙突から出てくる煙の色も落ち着きそろそろだろうか?

 炭窯の横にある覗穴の石を除けて、中を見る。天井を這うように炎が揺らめき、炭化が進んだ木材は赤熱してオレンジ色になっている。見える範囲には異常が無さそうだ、これなら大丈夫だろう。

 焚口にまわり、燃えている薪を掻き出す。石と粘土で焚口を塞ぎ蒸し焼き状態を維持する。


 小屋の脇に置いてある毒抜き中のテポートをもう一度確認する。

 石灰水のテポートは皮つきのものも含めて、完全に毒抜きが終わっていた。念のため取り出すのは明日の朝にしよう。

 残りの桶のテポートはまだまだ時間がかかりそうなので、炭焼き小屋に置いたままにする。

 今後の調査で、石灰水の濃さと漬け込む時間の見極めかな? いつまでも鑑定に頼るわけにいかない、記録を取って検証しないといけないな。


 ビラ爺を迎えに解体場に行く。ビラ爺の方もバンブの油抜きが終わったようだ。採取してきたバンブの半分くらいは終わったようだ。これならダルベさんの家の壁も問題なく作れそうだ。


 生乾きの型枠を使って作った大型七輪と火鉢をもって、ビラ爺と家に戻る途中にジーンさんが炊事場から出てきて声をかけられた。


「ソーヤ、時間があったらでいいんだが、バンブ串を作ってくれないか? この前のシチリーを使った串焼きを宴会に出したいんだ。」


「いいですよ。明日時間を見て作っておきます。」


 串焼きか… やばい、考えただけでよだれが出てきた。


「あと、ダッシュボーアを使った加工品のことだが、夕食後に相談させてくれないかな? 俺の知識だけじゃ限界があってな。」


「いいですよ、僕も相談しようと思ってたんです。」


 お楽しみの夕食の時間だ、今日は初めてテポートが食卓に。ジーンさんがどんな料理に仕上げたのが気になるな。炊事場からいい匂いが漂ってくる。

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