第151話 出張3

「ミーソの製造ですか… それはローク・ドージョー食品商会の秘中の秘では?」


「確かに製造方法に秘密はあるんですが、それ以前に製造に適した気候の土地がなかなかなくて、いろいろと調査していた候補の一つが開拓団ラドサだったんですよ。ただ開拓団ラドサは通商ルートから外れすぎていたのでね。流通を考えると不向きなんです。」


「なるほど、製法を守ることと流通のコストのバランスの問題ですか。」


 会話をしている間にアンジ村に到着、ウーマも疲れた様子が無い。この荷馬車はかなり高性能のようだな。


 休憩も終わり、ドゥラ村に向けて出発する。普通の荷馬車ではこんなに順調に進めないそうだ。

 時折すれ違う荷馬車はラドニから来たのだろうか、干し魚の香りが漂ってくる。


 幸いなことに辺境領では今年はまだ雪が降っていない。王都方面はすでに何回も雪が降り街道にも積もり始めて流通に影響が出始めたそうだ。ローク・ドージョー食品商会は早期の降雪予想していたらしく、王都へ向かう活魚馬車は例年より早めに出発した。天候の予測がつけば商機を逃すことも無い、さすがは王国有数の商会だな。


 カジリス商会も天候については留意することにしよう。急な天候変化で貸し出す魔道具の数がそろわなかったなどと言う事は避けなければ…

 すっかり商会を運営するという立場での思考になっているな。思わず苦笑が漏れる。


 ドゥラ村に到着すると、やはり行商人や様々な商会関係者が多く滞在している。宿泊場所は前もって村長に頼んでいた空き家を借り受けた。

 この賑わいなので村の宿に入れず、やむなく村の入り口で野営準備をしている行商人も多く見かける。

 途中の野営地でもかなりの人が休憩していたようだが、野営地と比較すれば村の近傍の方が何かと都合もいいだろう。商魂たくましいものは野営準備をしながら露店や屋台を出している。ジャッケ焼きのいい匂いが漂う。宿の前では商人同士がやり取りをしているので即席の商談会場のような状態になっている。

 

「やはり村長に頼んでおいて正解でした。領都ラドとラドニの中間地点ですから宿もすでに満杯のようですし、この時期の野営は寒さが堪えますからね。夕食は私が作りますので、それまでご自由にしててください。」


 次期商会長の手料理とは、何とも恐縮な話だ。

 時間があるようなので村の中を散策する。そのうちにドゥラ村にも魔道具を貸し出すことがあるかもしれない。取りそろえる魔道具についてのヒントがあればいいが。


 夕食には村長夫妻も招かれていた。6人でテーブルを囲み、ドルナルド氏の手料理を頂く。

 さすがの腕前だった。

 食前酒には暖かいメコー酒、体の芯から温まり食欲もわいてくる。

 メインディッシュはジャッケのソテー、付け合わせの野菜に掛かっているミーソを使ったソースも絶品。

 主食はパンではなくメコーを出汁の効いたスープで煮込んだリゾト、絶妙な塩加減でこの満腹感。

 領都ラドの食堂でもこれほどの料理を出す店は少ないだろう。


 村長と食卓での会話で、魔道具を貸し出すカジリス商会の話をする。


「ほぅ、魔道具を販売ではなく貸し出しとは考えましたね、故障したときは低価格で交換や修理をしてもらえるのですか。

 なるほど、それならこの村でもいろいろと魔道具が使えそうです。

 売り損ねた作物も腐らせてしまったりしていたので、保管庫に冷蔵魔道具を入手したかったのですが、値段が… でも、借りれるとなれば村でも使えそうです。そのうちにいろいろと詳しくお話を聞かせてください。」


 ラベス様の話を聞いた時に直感的に確信したが、やはりこの仕組みは非常に有望だ。おそらくあちこちの村や領地での潜在的な需要を掘り起こすことが出来そうだ。

 魔道具が一般的になれば必然的に工房や職人たちの生活も安定する。自分たちが儲けるだけではなく、周りも一緒に利益を享受できる。

 算術台やソーロバン、さらにはこんな仕組みを思いついた彼には感服するばかりだ。


 翌朝、日の出と共に出発する。さすがに冷え込んでいる荷馬車を曳くウーマ達の吐息が白い。


 途中の坂道では、ギダイ氏とゼシト氏は馬車から降り荷馬車の脇を固めるように歩いている。ギダイ氏によると坂を下った先に野営地があるそうだ。その手前あたりでソーヤさんがストライプウルフに出会ったらしい。我々は出会いたくないが。


 野営地のある林を抜けると開けた場所に出る、背の高い木は無くなりその代わりに背丈の高い草が生えている。

 この近辺には鬼兎オーガラビットが出没することがあるらしい。街道脇に出没していた鬼兎オーガラビットは討伐されたおかげで街道のこの付近は比較的に安全だという。


 クワル村には予定より早く到着することになったので、少し長めの休憩をすることになった。ドルナルド氏と私の二人で村長に挨拶をする。




-------------- 


 炭焼き小屋に戻ると、トーラに引きずられた子供たちが… しまった、あいつの嗅覚を甘く見てた…


 子供たちの視線の先… もちろん鉄板の上のテポートです。出来るだけ火力の弱い部分によけてあるから焦げてはいないが、きつね色の表面から香ばしい匂いが周囲に漂う…


「「「「「「「「「 ソーヤー! ず~る~い~! 」」」」」」」」」


 頭をかきながら、子供達の元に… 後ろからジーンさんもやってきた。


「ごめんなさい…」


「はっはっはっ、これはソーヤが悪いな。

 みんなすまんな、おれがソーヤに頼んで試食の用意をしてもらったんだ。まだ残っているから、少しづつ試食しようか。」


 ジーンさん… おれを庇ってくれるの? ありがとう。泣けてきた。

 バンブ置き場から、枝を切り取り持ってくる。桶の水で洗って適当な長さに切りそろえて簡易な串を作り焼いたテポートに刺していく。

 さっそくジーンさんが手を伸ばして一口。子供達も次々手を伸ばして食べる。


「「「「「「「「「 おいしい! 」」」」」」」」」


「ふむ、脂を吸い込んで焼けるとこんな味になるのか… これなら燻製肉との炒め物とか良さそうだ。今日の晩飯は期待しててくれよ、おれは仕込みに戻るから。」


 最後に残ったひとかけらを、ブンブンと音を立てそうな勢いで尻尾を振っているトーラに… 余計なことしやがって… まぁ、誘惑に勝てなかったおれが悪いんだけどね。


 石灰水も準備しておかないといけないな。使っているうちに殺菌(毒抜き)効果が落ちていくみたいだし。焚口で石灰石も一緒に燃やしておこう。


 子供達も薪を追加で持ってきてくれたりして手伝ってくれている。

 半日近く火を焚き続けてようやく煙突から出てくる煙の色が変わり始めた。さすがにこの量だと時間がかかるな、今夜一晩頑張ればなんとかなるか。

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