第148話 遭遇

「ダルべさん、僕からもお願いがあるんですけど… 四角くて構わないので、七輪を作る時に使う木枠もお願いできませんか?」 


「それなら木枠じゃなくて木型にしよう、その上から大きめの木型で押さえて固めれば。これなら大きさも一定に出来るし、シチリーを作るのも簡単になりそうだ。

 で、真四角じゃない大きめの型も必要だな。どれぐらいの大きさにする?」


「ちょっと待ってください。ジーンさんを呼んできます。」



 ジーンさんとダルベさんが話しをして、外側の大きさが、横幅50cm、奥行き30cm、高さ30cmで作ることになった。燃焼室はその内側だから少し小さめになる。

 子供達は出来上がった木枠に自分の七輪を据え付けて食堂に運んでいった。


「こんなもんかな? 隙間は2cmに合わせたよ。」


「ありがとうダルベさん。それと使っていないノコギリか手斧はありますか? 新しい炭窯の準備をしておきたいんで…」


ノコギリか… ソーヤ、今なら手が空いているから、一緒に出来るけど?」


「助かります。」


 二人で炭用の木材を切っていく。ある程度たまったら、炭窯の中に入ってどんどん隙間なく詰め込んでいく。切断で出たおがくずは焚口に集めておいた。

 解体道具の片づけを終えたビラ爺が様子を見に来た。


「ソーヤ、そんな暗がりで作業しておったら危ないぞぃ、ちょっと待っておれ。」


 ビラ爺が何かを手に持って戻ってきた。


「ソーヤ、魔法灯ランタンじゃ。これなら見えるじゃろ。」


「ありがとう、ビラ爺。」


 微小魔石を使った魔法灯ランタン… さっき欲しかったな。でもこれで作業がしやすくなった。一応窯の壁面も確認しつつ木材を詰め込んでいく。

 この前回収してきた分で足りそうだ。余った木は焚口の脇に積み上げ薪にする。

 入口のギリギリまで詰め込んで、隙間に石灰岩を仕込んでから、脇に置いてあった石で覗き窓を作りながら塞ぐ。


「ありがとう、ダルベさん、ビラ爺。これで炭づくりが始められるよ。炭が出来上がれば、今日解体したダッシュボーアも美味しく食べてあげられるし。」


「楽しみじゃの。」「楽しみだね。」



 夕食まで時間が空いたので、追加のテポートを掘りに行くことにした。昨日焼いておいた石灰石も試してみたい、回収した時に簡単に崩れるくらい脆くなっていたから生石灰になっている部分もありそうだ。

 これで強アルカリの水を作れる。殺菌(毒抜き)時間の短縮につながればいいけど。



 2匹と一緒にテポート掘りに向かう、今回は手早く掘って回収してくる予定だから子供達は連れて行かない。帰りには採ったテポートを川で先に洗ってしまおう。

 先日の突き刺した竹を目印にしたので、ウロウロ迷うことなくすぐに到着。麻袋二つ分、約50kgを採取して戻ることにした。


 トーラとシーマが森との境界の藪を見て警戒し始めた。

 もしかしたらこの前バラーピカを襲った肉食獣か?

 麻袋とスコップをマジックバックにしまい込み、短剣を構え森の入り口を凝視する。


 入り口の灌木が揺れ動きそいつは姿を現した。


 ストライプウルフの成獣! 子連れ? だとしたら、まずい… しかもこっちは風上、ここはゆっくり撤退だな。そう考えていたらトーラとシーマが吠える。


 ウゥー… キャン! キャン! キャン! 

 キャフ! キャフ! 


 おいおい、刺激するんじゃない! 小声で2匹をたしなめる。


 そいつは2匹の鳴き声が聞こえたのか、こちらに向き直り鼻をひくひくとさせて漂う匂いを嗅ぎ始めた、冷たい汗が… しばらくすると


 ワゥッ! ワゥォーン! 


 ひと吠えをしてから、ゆっくりと森の中に消えていった。


「ふぃぃぃ… 緊張したぁ… あいつ、お前らの親よりデカかったぞ。襲われたら勝てる気がしないよ。長居は無用だ、さっさと帰るぞ。」


 森の方向を見ながらしばらく後ずさりをして、踵を返して一気に丸太橋まで走っていく。丸太橋を渡り切ってようやく一息つく。


 ストライプウルフの成獣があのあたりをうろうろしてると言う事は、あの近辺はあれの縄張りなのか? そうなると今後の採取も考えないといけないな。


 開拓団ラドサに戻る前に、河原に下りて採取したテポートを洗って土を落とす。さすがに麻袋2つ分を洗うのはは骨が折れた。




 夕食の時にビラ爺にストライプウルフの成獣と出くわしたことを話す。


「今日、テポートを採りに行ったら森の中からストライプウルフの成獣が出てきたんだ、あのあたりって縄張りになっているのかな?」


「ストライプウルフの成獣か。そいつはおそらく番の雌探し中の雄じゃろう、ストライプウルフは基本的に縄張りを持たんからの。

 大方、今年の夏に子育てを始めた雌に追い出されたんじゃろうな… 案外、あやつらの父親だったかもしれんぞ。」


「そういえば、トーラとシーマが吠えた後に森の中に戻っていったよ。でも鳴き声で自分の子供と判ったとかじゃないよね。」


「そうじゃな、判ったわけではあるまい。子供がいたので子育て中の雌が居たと思ったのかも知れんの。子育て中の雌は気性が荒く、雄でも襲うからのぅ。」


 ストライプウルフの世界もですか… 開拓団ここも女性陣が…


「ソーヤ、何か変んな事考えてるんじゃないの? テポートは採ってこれたの?」


 お… 驚いた。急に背後から声かけないで。あと心の中見透かさないでよ。ベルナさん…


「安心してください、ちゃんと麻袋2つ分採取してきましたよ。夕食後から毒抜き作業に取り掛かりますけどね。」


「そう。ならいいわ。テポートがあんなに美味しいなんて思わなかったわ。」


 あぁ… 試食会に参加されたんですね。まだまだ驚きますよ、きっと。


 その夜、最初に漬け込んだテポートの鑑定をする。皮付きのテポートも完全に毒抜きが完了した。取り出してみるとあのどぎつい緑色はどこにもない、どう見てもじゃがいもそのものだ。

 皮付きも四日あれば…

 これで一つやることの終わりが見えてきた。次は石灰で時短ができるかの確認だね。


 石灰石を取り出して表面の脆くなっている部分を削り取る。簡単にぽろぽろと崩れていく。

 そういえば生石灰って、直接触ったりしたら手荒れとか… 慌てて皮手袋を取り出して装着。乾いた木皿の上に載せてみたがこれをさらに細かくしないと… 薬研を使ってもいいけど、薬造り用の物だから使いまわしは控えたいな。


「ビラ爺、ちょっと出てくる。」


「こんな時間にどうしたんじゃ?」


「この石を砕いた粉末をさらに細かくしたいんだ。石材置き場に行って使えそうな石を探してくる。それとこの石の粉末は素手で触らないでね、ものすごく手が荒れちゃうから。」


「砕いた石を粉末にするんじゃな。それならちょうど良さそうなものがあるぞぃ、あそこに置いたあったかのぅ?」

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