第147話 完成したよ。

「ビラ爺、相談なんだけど。出来れば血は桶に入れて確保しておきたいんだけど、だめかな?」


「血なんぞ残してなんに使うんじゃ?」


「ジーンさん、血で作る腸詰って聞いたことない?」


「あ~… あれか… でも、ダッシュボーアの血で作るなんて聞いたことが無いぞ。

 昔、帝国に行った時に食べたことがあるが、あれは好き嫌いが別れるな。

 香辛料も開拓団ラドサにある分じゃ全然足りないぞ。」


「人が食べるんじゃなくて、固めてトーラたちの餌にしようかと… あいつら結構食べるから…」


「固めるにしても、血だけじゃ上手く固まらいだろ? 作っている最中の匂いも強烈だしなぁ…」


「毒抜きの終わったテポートを混ぜて、バンブに入れて茹でれば固まると思う。これから冬場で餌の確保も大変だから…」


「腸詰じゃなくて、バンブに詰めて茹でるのか… 蒸しあげたほうが良さそうだな。昨日試作したテポートの感じなら上手く出来るかも… 人が食べてもいいかもしれん。面白そうだ。師匠! おれからも頼みます。」


「二人がそう言うんならやってみるかの。使っていない桶を用意するかのぅ。そうなると少し手順を変えんといかんな。」


 いくつか使っていない桶を洗って用意する、その間にビラ爺が首元の毛を剃り落して血抜きの準備を始める。


「ソーヤ、最初は噴き出すかもしれんぞ。浴びないように気を付けるんじゃぞ。では、いくぞぃ。」


 ナイフを当てスッと切ると血が噴き出した。急いで桶でその噴き出した血を受ける。一分もたたずに満杯になったので、すかさず次の桶と交換する。4杯目になるとさすがに勢いも無くなってきた。血の回収は終わりにして、残りはそのまま床に流した。


「やはり吊り上げたままじゃ無理そうじゃ、一度下ろして内臓を抜くぞい。」


 ビラ爺の指示通りに一度下ろしてから、首を落とし腹を裂いて内臓を取り出す。この前の鬼兎オーガラビットの解体と基本的な手順は変わらない。

 解体した内臓は部位度とにまとめて桶に入れておく。内臓を取り終えると、解体場の石床が血と脂で滑りやすくなったので、デッキブラシを召喚してささっと掃除をする。


「さすがじゃの、あっという間に床が綺麗になったのぅ。これならすぐに次の皮剥ぎに取り掛かれるぞい。」


 ビラ爺が剥ぎ取りの準備をして少しづつ皮を剥ぎ始める。


「ジーン、ソーヤ、ゆっくりと吊り上げてくれ。もう少し…そこで止めてくれ。」


 ビラ爺がまた皮を剥ぎ、合図で吊り上げる。

 何回か繰り返して目いっぱい吊り上げて、滑車の縄を固定する。目の前には皮を剥ぎ取られて枝肉状態になったダッシューボーアが…


「ふぅ… 皮も傷つけずに綺麗に剥がせたのぅ、これだけの大きさじゃから色々と使えそうじゃのぅ。どうじゃ? 解体を見た感想は?」


 いつの間にか、解体場に子供たちが見に来ていた。もちろんトーラとシーマも。

 おい!トーラ…涎を何とかしなさい。

 

「「「「「「「「 凄かったー! 」」」」」」」」


「今度、僕もやってみたい!」


 マルコ君がビラ爺に言う。


「マルコ… 今は駄目じゃ。ジーンは16の時じゃったからのぅ。

 そうじゃな… 15になったら、狩りと解体を教えてやるかの。」


「ビラ爺、絶対だよ! 約束だからね!」


 やばい、あと二年で器用なマルコ君が… なんてね。その頃には、おれも今以上に腕をあげているはず… だよな。


 その後、3人で部位ごとに肉を切り分けていく。切り分けた肉は前足の骨付き一つを除きマジックバックにぶち込んでおく、在庫の様子を見て食糧庫に移すことになった。内臓と血の入った桶もマジックバックに入れておく。


「終わったのぅ。三人で解体せんかったら、さすがに今日中には終わらんところだったぞい。肉も皮も上々じゃ。」


 子供たちも一緒になって片付けと掃除をする。

 そうだよね、早く焼き上がりを見たいよね…


「こんなもんでええじゃろ。ソーヤ、子供たちが待ちかねておる様じゃから後はわしとジーンで片付ける、こっちはもう大丈夫じゃ。」


「ごめん、ビラ爺。窯出しに行ってくる。」


 子供達に引きずられるように簡易窯に向かう。さっそく上に載せてある土を収納し脇に排出する。

 石の温度は… うん、問題なく触れるくらいに冷めている。蓋代わりの石をマジックバックに収納すると、むわっとした熱気が上がってくる。

 触れないほど熱いわけじゃないけど、もうしばらく待つことにしてこのまま様子を見る。子供達が代わるがわる窯の中を覗きに来る。


「もう少しこのまま様子を見ようか、慌てて取り出して割れたら悲しいからね。」


 みんなが頷く。その間に一度火入れした新しい窯の方を見て置くかな。


 新しい窯の横の出入り口を塞いでいる石をどかして中を確認する。入り口から差し込む光だけじゃ細かいところまで確認できないが問題はなさそうだ。残しておいた石灰石の塊を回収して外に出る。

 うわぁ… 手が真っ黒、ズボンの膝も真っ黒だ… 本格的に使う時は皮手袋をして作業しないと大変なことになりそうだ。


「ソーヤ! 冷めたから取り出してもいい?」


 ジェス君が聞きに来る。


「わかった、取り出してみようか。僕がマジックバックで取り出すから。」


 簡易窯の上に上半身を乗り出して、素焼きした七輪をマジックバックに回収してから子供達の目の前に取り出して置いていく。

 見た感じはひび割れも無く全部いい感じに焼きあがっている。

 焼きあがった七輪を見て、子供たちが歓声を上げる。


「出来てるー!」「ピカちゃんの印、これわたしのー!」「でも重いよー!」


 わいわいと自分の作ったものを見ながら、思い思いの感想を口にする。


「この前作ったのは、運びやすいようにダルベさんに木枠を作ってもらったんだ。ダルベさんの手が空いていたら、作ってもらった方がいいかもしれないね。」


「ダルにいに聞いてくる。」


 そういってマルコ君がダルベさんを探しに行った。しばらくすると板材と大工道具を持ったダルベさんとマルコ君が戻ってきた。


「ソーヤ、この前みたいな木枠でいいのか?」


「みんなの作った七輪の大きさがバラバラですけど、お願いします。」


 ダルベさんが寸法を測り、板を加工していく。


「これ、模様が書いてあるから見えるようにしておくか。どう思うソーヤ?」


「そうですね、せっかく付けた模様が隠れちゃうと、もったいないかもしれないですね。」


「わかった、最初は… コッケルの絵か… これはハンザのか?」


「うん!」


 空気口の上の左右にコッケルが向かい合うデザイン。結構上手に描かれている…

 そんなに時間もかからずに9個の木枠が完成する。さすがスキル持ち。そうだ、ついでに大型七輪の木枠も作ってもらおう。

 そう思い先日書いたメモを取り出して見せ、メモに書いてあった七輪用の木枠の絵を説明する。

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