第146話 いよいよ試食

諸般(本業)の事情により、月末までイレギュラー更新が頻発します。

よろしくお願いいたします。

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「ソーヤ、その桶何が入っているのよ?」


 ルシアナちゃんが不思議そうに桶を見つめる。


「この桶の中身はね、テポートだよ。

 テポートの毒を抜く方法を思いついたから、試しているんだ。

 ほら、こんな感じになって…」


 桶から皮をむいたテポートを取り出して、子供たちに見せる。


「テポートが白いなんて、おかしいのよ!」


「もともと、テポートの中身は白いんだ。毒が入り込むと緑色になるんだよ。」


「「「「「 そうなの? 」」」」」


 桶の中から取り出したテポートを鑑定してみると、皮をむいたテポートは完全に共生細菌が無くなっていた。

 皮をむけば、二日漬け込めば問題なさそうだな。皮付きの方はまだ共生細菌が残っている。こっちはもうしばらく漬けておくか。


「テポートの毒が無くなれば食べれると思うよ。この皮をむいたのは毒が無くなっているよ。焼いたり煮たりして。」


 といっても、すでに鑑定で共生細菌がいなくなっているのも判っているし、食べ方も知っているからね。


「試しに焼いてみようか、でも食べちゃダメだけどさ。」


「「「「「 食べたい!! 」」」」」


「駄目だよ。僕が団長に怒られちゃう。この漬け込んでいる水は灰を混ぜているんだ。掻き出してくれた灰を使って、もう一度試そうと思って持ってきたんだ。」


「団長が良いって言ったら食べてもいいの?」


「だけど、団長が良いというのか? それは分からないよ。あっ!そろそろ薪を足さないと…」


 薪を追加しようとしたら、ガルゴ君が


「団長に聞いてくる。」


 といって走り出しすぐに姿が消えた。親譲りの足の速さだ… ていうか、まずった。鑑定で問題ないことは解っているけど、子供たちの前でテポートの事話したのは失敗だったな、ここは素直に団長に怒られておこう。



 しばらくすると、ガルゴ君が団長を連れて戻ってきた。

 団長が顎で合図して呼んでいるので、ガルゴ君と入れ違いに団長の元に行く。

 テポートの実験結果を話して、素直に謝るか。


「ソーヤ、迂闊だぞ。食いものが増えるのは良いことだが、子供達に…」


「すみません団長、その通りです。言い訳できません。」


 団長が話している途中で謝罪する。


「まぁ、解ってるならいい。で、テポートはどんな感じなんだ?」


「鑑定で調べて確認したんですけど、皮をむいたテポートの毒は完全になくなってます。皮付きの方はまだ残ってました。」


「そうか、食えるようになったか。あとでジーンに話しておく、毒の抜けたテポートをジーンに渡してくれ。

 おめぇの鑑定を信用していない訳じゃないが、今夜おれを含め何人かで試食してみる。問題無ければ追加の採取と毒抜き作業を任せるぞ。」


「わかりました。すみませんでした…団長。」


 団長が子供達に話をしてその場は治まった。がっかりしてたけど、そこは我慢してね。


 夕方、最後の薪が燃え尽きた。このままゆっくり冷やせば明日の昼には取り出せそうだ。

 せっかくの灰も集めて桶に入れる、完全に燃え尽きていない感じで所々黒い部分が残っている。炭の灰とどう違いが出るかも調べておかないと。


 建築作業をしていたみんなが、風呂やダルベさんの家を作る際に出た細かい端材や木片なんかを集めて炭窯の小屋まで持ってきてくれた。あまり量は無いけどこれで新しい窯の火入れをして不具合を確認する。

 こっそり石灰岩の塊を窯の中に入れて残しておいた。横の出入り口にのぞき穴を作って石と粘土で塞ぎ、焚口から端材を燃やしてみる。

 いい感じで窯の天井部分に火が廻りこんでいる。煙突からは問題なく煙が立ち上っている、窯を大きくした分だけ焚口も大きくなっているので、薪をくべるのにも問題はなさそうだ。




 夕食前に、ジーンさんに毒抜きの済んだテポートを手渡しに行く。ついでにサーブロさんの残した素材集の話と、おれの知っている調理法も伝えるてみるかな。何しろ量が少ないからね…


「ソーヤ、これがテポートか? おれの知っているテポートと色が全く違うんだが。」


「間違いなくテポートです。テポートのあの色が毒の元なんです。」


「3個しかないのか、これじゃそんなに多くは作れないな。どう調理するかな…」


「ジーンさん、実はサーブロさんの素材集やレシピにある ”マジョッカ” は無毒テポートの代用品という事らしいんです。おそらくサーブロさんがテポートの毒抜きの方法を確立できなかったので ”マジョッカ” を使ったみたいなんです。」


「”マジョッカ”が代用品? だとすると… は、テポートが使えるのか?」


 … サーブロさんも発音の矯正をあきらめたのか? ロックの申し子のあの人を思い浮かべて吹き出しそうになるのを我慢…


「そうです、食感なんかはテポートの方がなめらかかもしれないです… でも、慣れ親しんだ ”マジョッカ” の食感とは違ってくるかもしれませんけど。」


「まいったな、この量じゃを作るには少なすぎるな… どうするかな…」


「手の凝った料理にする必要は無いと思います。

 あくまで食材として使えるか? 食べて問題無いか? それの確認ですから、茹でるだけでも…

 そうだ! カラーゲ… 違うな、素揚げはどうですか? 味付けは塩をかけるだけで、油との相性は抜群だと思うのですけど。」


「素揚げか… 手間もかからないし、この量なら油もそんなに使わないな… 薄く切った奴も揚げてみるか、食感が違えば…」


 ジーンさん天才かよ! ポテチも思いついているじゃないか。でも今回の目的はそれじゃないから。


「ジーンさん、凄いアイディアかもしれませんけど… 

 今回は食べて問題無いか? を確認することが目的ですから。」


「そうだな、ざく切りにして素揚げでいいか、茹でるだけでも良さそうだ。食えるならこれからもいろいろと試せそうだからな。」


 そうですよ。まだまだ毒抜きの方法も改善できそうだし、全然量も足りないですからね。とりあえず今ある分は全部皮を剥いて漬け込んでおこう。



 その夜、試食した団長たちの叫び声が食堂に響き渡った。


!! !!」



 翌日は、いよいよダッシュボーアの解体を始めることになった。動滑車の仕組みを使って吊り上げてみたが、とんでもなく重い。動滑車を2重にしてやっと持ち上がった。ところが…


「まいったのぅ。やはりデカすぎて目いっぱい吊り上げてもまだ床に頭がついておる。一番最初に血抜きして頭落としておくかの。」


「ビラ爺、血の量も半端ないと思うけど、全部廃棄するの?」


「このまま、石床に流してしまってあとで掃除すればいいじゃろ。小屋の外に穴を掘っておくかの。」

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