第145話 年上の責任感
「ビラ爺、ダッシュボーアの解体はいつやるの?
夕食の時に気になったので聞いてみた。
「そうじゃのぅ、西の森は後回しじゃな、解体が先じゃな。明後日の朝から始めるかのぅ。じゃがあの大物を吊り上げるのは、わしとソーヤだけではさすがに… 無理そうじゃ、ジーンにも手伝って貰うことにするかの、三人ならなんとかなるじゃろ。
ジーン! ちょっとこっち来てくれんか!」
「なんですか? ビラル師匠。」
ビラ爺が ”師匠”? そっか、ジーンさんも斥候隊隊員だったっけ。
「明後日、大物の解体をするんじゃが、手伝って貰えんか? 教えたことは覚えとるか?」
「はい! 喜んでー!
もちろんお手伝いさせていただきます。腕も磨いていましたから問題ありません。」
ジーンさん、その前掛け姿でその挨拶… まるで前世の居酒屋だよ。
「ならば問題ないのぅ。ソーヤ、明日わしは道具の手入れをしておるで、
「うん、ビラ爺問題ないよ。簡易竈に火を入れたら
「ほぉ~、山ジンセンを見つけたか、冬の間あれがあると助かるからの。あの2頭はダッシュボーアを仕留めた時もしっかり牽制が出来ておったし、探索する時には優秀なパートナーじゃの。」
あの2匹の出会えたのは本当に感謝だな。最初は噛付かれたけど、今ではすっかりおれの言う事を理解して行動してくれる。あいつらに早く親の毛皮を渡してあげないといけないな。
翌朝、体操前に簡易竈に火を入れて少しだけ暖めておく。竈の中まではそんなに冷え込んでいないだろうけど、急激に加熱したせいで割れたりしたら… 泣き顔は、なるべく見たくないからね。
朝食後の洗いものを済ませて簡易炭焼き窯の所に行き、子供たちが朝の仕事を終わらせて集合するのを待つ。
「ピカちゃんがちゃんとお乳分けてくれていたの。赤ちゃんたちの目もぱっちり空いていたの。」
今日の当番だったマリサちゃんが報告してくれた。
良かった、ピカちゃんが受け入れてくれたみたいで安心したよ。
朝の仕事を終えた子供たちが次々集まってくる。
「みんな仕事終わった?」
「「「「「「「「「 終わったー! 」」」」」」」」」
「じゃあ、本格的に火入れをするからね。火を使うからみんな気を付けてね。」
「「「「「「「「「 はーい! 」」」」」」」」」
「マルコ君とジェス君とガルゴ君は桶に水を汲んできて。他のみんなは薪を持ってきてね。」
まだ火が残っている簡易竈に薪を追加して火力をあげていく。
「僕が戻ってくるまで、これぐらいの火を焚き続けてくれるかな? 燃え切った灰は掻き出して脇にまとめておいてね。2時間か3時間ぐらいで戻ってくるから。
あとふざけたりして、不用意に火元に近づかないでね。
万が一竈が崩れた時はシチリーを何とかしようとかしないでね。
その場にとどまって何かするんじゃなくて必ずみんな逃げてね、その時は団長に連絡してね。いいかな?」
「「「「「「「「「 わかったー! 」」」」」」」」」
「リーダーはマルコ君だ。僕は
「わかった!」
火の番を子供たちにお願いして、
トーラとシーマを連れて
「トーラ! シーマ! 行くよ!」
声をかけて走り出すと、すぐに2匹が警戒ポジションについて走りはじめる。
縄なしで行動するのも全く問題が無い、すっかり板についてきたな。
道中は何事もなく到着。さっそくトーラとシーマの2匹に周囲の警戒をしてもらいながら
なるべく密集している部分を間引くように選んで伐採して収納していく。多少は曲がっている物も混じるが、曲がっている部分を
だいぶすっきりとして視界が通るようになった。春になったら間引いた部分から筍が出てくればいいな…
頼まれていた量よりもかなり多めになってしまったけど、これだけあれば
帰ろうとした時に、シーマが急に藪の方を向いて立ち止まる。その方向に視線を送ると、鹿の様な感じの生き物と目が合った。昔見た奈良公園の鹿よりも足が長く、首が少し短い、色は枯草の様な退色した緑色。
「緑色の鹿? ビラ爺が言ってた ”グリンデア” って奴か?」
離れていたトーラも近づいてきたが、その瞬間に藪の奥に逃げていった。
「まさかあの姿で肉食とかじゃないよな? とりあえず戻るか。 トーラ! シーマ! 帰るよ!」
そう声をかけて、
到着して、風呂の建設現場に向かうが誰もいない。すでに柱と屋根は作業が終わっているが、湯船になる物もなくがらんどう。床用の石材だけが風呂小屋の真ん中に鎮座していた。
「もうダルベさんの家に取り掛かっているのか、早いな。」
ダルベさんの家を作っている場所に行くと皆がそろっていた。
「団長、
「おかえり、そうだな、解体場の脇に置いてくれ。あそこなら油抜きをするにも問題ないだろ。」
「わかりました。出しておきます。」
一度家に戻り、テポートの入った桶をもって簡易窯の方に向かう。途中で桶を置いて、解体場の脇に採ってきた
ここなら、解体をしていないときは屋根付きの場所で油抜き作業も出来るし、加工で出た端材はすぐに炭焼き窯に持っていけるな。
桶を持ち直して、簡易窯で火の番をしている子供達の元に行くと、マルコ君を中心として年長組が薪を追加したり、灰を掻き出したりしている。見張り小屋の中にはハンザ君、カーラちゃん、アマル君、マリサちゃんの年少組がトーラとシーマに抱き着いて一緒に休憩をしていた、眠そうだな。
「ただいま。マルコ君、何か変わったことは無かった?」
「ソーヤ、お帰り。大丈夫だよ、途中で薪が
「薪が
「うん、大丈夫。」
「よかった。さすが年上だね、ちゃんとみんなのことを考えて。」
「この前、ダルにいに叱られて… もっとしっかりしないと… そう思ったんだ。」
そうか、あの時の事を自分なりに反省して行動したんだ。すごいよマルコ君。
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