第143話 顔面発火…

「ビラ爺、面白いものって、さっきのガースさんの事? なんだか人間の枠飛び越えてない? この前も素手で石砕いてたけど… あの巨岩を割るとか…」


「ソーヤに見せても構わんと思ったんじゃろ。どちらかというと、素の力というよりは籠手ガントレットと魔道具の破壊びょうの力じゃな。

 まぁ、あの籠手ガントレットを使いこなしている時点で人の枠を超えとるかもしれんがのぅ。」


 そもそも、あの籠手ガントレットと破壊びょうの組み合わせは攻城兵器だという。だけど造られてから何十年も使いこなせる人物が現れなかったので、ずっと辺境領騎士団の武器倉庫で眠っていた物だとか。

 魔獣討伐の際に体術の適性が一番高かったガースさんに貸与されていた。

 破壊びょうの力が無くても籠手ガントレット自体が強力すぎて、ぶん殴った魔獣は片っ端から全部破裂… 返り血を浴びまくったそうだ。


 討伐に参加した他の隊の人たちからは

 『血染め豪拳ブラッディ・フィストのガース』

 と言われてたそうだ。 …なにそのカッコイイ二つ名…


 ただ3日目に遭遇した魔獣が、ビラ爺たちも見落としてしまった異常行動を取っていた例のポイズンフロッグ、毒まみれの返り血を浴びたガースさんが動けなくなり戦線が崩壊しかかった。

 その時に団長が救援に行ったが何名かはすでに帰らぬ人となってしまったそうだ。


 その後、一度は返却しようとしたが、辺境伯から他に使える者が皆無との理由でそれ以来ガースさんが所持している。


 …個人が攻城兵器もってて大丈夫なのか?


 帰り着くと、?石を加工して積み上げていく。まだかなり大きいので1m×50cmぐらいの直方体に割っていく。

 合わせ部分の細かい加工はハンマーとたがねを使い仕上げる準備をしていたら団長がふらりとやってきた。

 

 ガースさんと団長が一言二言話をしていた。おれはガースさんに呼ばれて小さく割った石(それでもデカい)を一度収納し、ガースさんに指示された向きに置き直す。こういう所はマジックバックの便利さが際立つよね。

 一度自宅方向に去っていった団長が剣を持って戻ってきた。


 もしかしてまたぶった切るの? この前ベルナさんと一緒に切りまくってたよね。


 おれが置いた石の前に自然体でたたずむ団長、腰に手をやり剣を抜くと一閃、二閃… 音も立てずに切り落とされ、綺麗な切断面を見せる石がそこにあった。


「これでいいか? ガース?」


「完璧です。団長!」


 そういって親指を立てるガースさん。

 ガースさんもだけど、団長も… たいがいだよな…


「ソーヤ! ぼうっとしていないで、さっさと組み上げるぞ!」


 きれいな切断面を見せている石をマジックバックに収納して、木の支え(支保工)が組まれた窯の上に石を取り出す。

 ビラ爺たちが梃子の要領で鉄の棒を使い移動、ガースさんが木のクサビで微調整をして位置を決めると、反対側の石もクサビの置かれた石の上に出すように言われたので取り出す。

 左右からハンマーでクサビを抜き、その後上部のクサビを抜き取ると、ぴったりと隙間なく天井面の石が組みあがる。

 最後にガースさんが窯の中で支えていた木の支えを解体して運び出してくる。


 さすがにガースさんの体型では入り口がギリギリだったけど。


「あとは隙間を粘土で埋めて、土を盛って押さえればいいだろう。さあ最後の仕上げだぞ。」


 粘土で隙間を埋めていく、側面の隙間はあるけど団長が切断していた合わせ面には紙一枚の隙間すらない。とんでもなく高精度だよ。


 土の盛り上げも終わり炭焼き窯が完成した。

 見た目はまさに古墳、周囲に素焼きのハニワとか土偶なんかを置いておこうかな。


 開拓団のメンバーが材木をもってわらわら集まってくる。何をするのかと思ったら聞く間もなくどんどんと組み上げていく。

 窯の上に立派な屋根、しかも風除けのある小さなブースも焚口の前に作ってある。


「ソーヤ、おまえ一晩中火の番をしてたらしいじゃないか、そんなお前にからの贈り物だ。これなら吹きっさらしで夜を明かさないで済むぞ。サクラさんにも寒い思いさせなくて済むな。」


 ちょっ、ちょっと待って… ガ…ガースさんなんてことを言い出すんだよ。

 おれの顔が急激に赤くなっていくのを感じる、耳が熱い。あれからなるべく意識しない様にしてたのに。


「残った石は、風呂を作る場所の脇に置いといてくれ。明日から風呂小屋の建設をするからな。といっても、床と壁だけだけどな。」



 驚いたことに、簡易炭窯の方にも屋根と小屋が作ってあった。簡易窯に使う蓋の石を取り出し脇に置いておく。

 その足で解体場に行くと子供たちが粘土を捏ねて、思い思いに作品を造っていたのだが… もう置き場がないくらい所狭しと置いてある。こんなに置いていたら、ダッシュボーアの解体できなくなっちゃうよ。


 ジェス君の脇で座ったトーラがポーズを取っている、何をしているのかと近づいてみてみると… トーラの粘土細工… 緻密なつくりだよ、しかも本物の3割増しでかっこいいぞ。


「あつ! ソーヤ、まだ粘土ある?」


 おれに気が付いたジェス君が尋ねてくる。

 さすがに、これ以上は置き場所がないだろ…


「まだあるけど…みんな作りすぎだよ。

 これ以上ここに置いてたら、解体が出来なくなってお肉が食べられなくなるけどいいの? いま作っているので終わりにしよう。乾くのに時間もかかるし、また今度作ろうよ。」


「えぇ~っ… でもお肉食べられなくなるのも困る…」


 子供たちが、しぶしぶと粘土をせびるのを諦めた。でも、明日はメインイベントだから。


「明日はこの前みんなが作った七輪シチリーを焼きます。僕が食堂から持ってくるから作るのが終わった人から片付けてね。」


「「「「「「「「「 はーい! 」」」」」」」」」



 食堂に行くとジーンさんが待っていた。


「ソーヤ、鬼兎オーガラビットを焼いて食べた時に閃いたんだが、シチリーの大型の物用意できないか? あれを使えば、今まで焼きの納得が出来なかった…

 ”ヤーキトリー” が上手く焼けるはずだ。ジャッケ焼きも…きっと旨いはずだ。」


 炭火焼の焼き鳥とジャッケ焼きか… 非常にそそられるが… 大型にすると素焼きの途中で割れる可能性が高くなるな。


「大型ってどれぐらいの大きさですか?

 すぐには無理ですけど、それでもいいなら。大型にするといろいろと問題が有るので試行錯誤しながらになりますから。

 そうだ、今のサイズで使えそうな焼き網って余計にありますか?」


「もちろん今すぐにってわけじゃない、大きさも相談したいしな。

 焼き網か… 少し大きめの物なら何枚かあるな。」


「よかった、もう少しすれば炭も安定して作れるようになりますしそのあとなら。

 網があれば… 宴会の時にダッシュボーアの肉を、七輪シチリーで網焼きにしてみたかったんです。食堂の壁を外したままじゃ寒いですからね。」

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