第142話 余計な道具は無用

 しかし、テポートの毒が共生細菌のせいだったとは。テポート自体に毒が無くて良かった。でもそうなってくると、やはり疑問になるのがサーブロさんの食材鑑定をなぜすり抜けて食用不可になっているのか気になる。


 一番考えられそうなのが、そもそも毒が有るからといってサーブロさん本人が鑑定する前に除外されていたのかもしれない。でもサーブロさんのレシピでは、じゃがいもについてわざわざ代用品を調べ上げている。代用品候補として調べていると考えるのが普通だろう。

 おれのスキル ”たわし召喚!” がそうだったように、サーブロさんの食材鑑定も当初はあまり詳しく鑑定できなかったのかもしれない。初期に調べてその後再鑑定をしていなかったのかも知れない。そこら辺は日記に…

 まずいなぁ… そろそろ放置している日記の翻訳も再開しないと。



 翌朝、桶の中からテポートを取り出して鑑定・観察してみる。

 表面のどぎつい緑色がだいぶ薄くなってきている、でも鑑定だとまだ共生細菌は生き残っている。もう少し様子見だな。そうだ、試しに半分に切った物も入れてみるかな。

 麻袋から新たなテポートを取り出し半分に切ってみる。

 あれ? この前のテポートは中まで緑色だったのに、これは中が白い。違いは採取してからの時間だけど、放置しておくと共生細菌が中まで侵食してくるのか? それなら、皮をむいて漬け込めば一気に細菌を死滅させることが出来るかもしれない。

 また数個取り出して皮をむいて鑑定。共生細菌は排除しきれていないなぁ、漬け込んでおくか。



 体操が終わると団長に手招きされる。


「昨夜テポートの毒がどうとか言ってたが、あれは何の話だ? 説明してくれ。」


 トーラとシーマの散歩を子供たちとサクラさんに任せて、団長と一緒に家に戻る。


「これです。灰を入れた水でテポートの毒が消せるようなので試しています。」


「毒の浄化か? それならスライムでも同じことができそうだが?」


「正確に言うと、毒というより毒の元になる目に見えない小さな生物を殺して無害化しているんです。スライムくんに任せたら、テポートそのものも無くなってしまいます。」


「スライムくん? まぁいい。無毒になるというのは食っても問題ないと言う事か?」


「そうです。無毒になれば食材として使えます。それこそ主食としても問題ないほどに栄養はありますから。」


 桶の中のテポートと麻袋の中のテポートを並べる。


「桶の中のテポートの方が色が薄くなってますよね。たぶんこの色が毒の元です。一晩漬けただけでこれだけの違いが出てます。」


「その色が原因という根拠はあるのか?」


「それを調べるために、皮をむいた物も入れてあります。」


 桶の中から皮をむいたテポートを取り出す。


「ちょっと待て、テポートが白いだと? 普通は中まで緑色のはずだ。違う物じゃないのか?」


 漬けていないテポートをそのまま半分に切る。


「もともと中身は白いんです。時間がたつと毒の元が中まで入り込んで緑色になるみたいなんです。あと育て方によっては最初から無毒のテポートも作れるかもしれません。」


「無毒のテポートか。作り方も心当たりがあるんだな。」


「はい、ですが農地の土の質を根本的に変える必要がありそうなので時間は掛かると思います。

 炭の灰を混ぜると土の質を変えれそうですが、他の農作物に出る影響なんかも調べる必要があります。」


「それが事実なら食糧事情は大きく改善するな。開拓団ラドサの特産品にしてもいいかもしれん。で、そのために炭を燃やした灰が必要になるんだな。」


「そうなります。毒抜きや土の質を変えるのに、灰に代わるものがあればいいんですけど。」


「そうか、どうするかは春までには考えておこう。それまでは毒抜きの方法を調べ上げてくれ。そうだ、2・3日中にバンブを採りに行ってくれ。壁づくりでかなり使いそうだからな。」


「わかりました。」



 戻ってきたトーラとシーマに朝ごはんを与え、食堂に行く。

 食後にガースさんが話しかけてきた。


「ソーヤ、そろそろ石が足りなくなりそうだ。上に使う石も含めて4人で探しに行くぞ。」


 手早く食器を洗い終え4人で石材を採りに行く。鬼兎オーガラビットの繁殖地より上流側に石材のとれる場所がある、トーラとシーマに警戒をさせながら繁殖地を迂回しつつ林の中を通って上流側に向かう。


 林を抜けると、巨岩が転がる開けた場所に出た。まさかこの岩を運ぶの?


「ガースさん、いくら何でもこの岩は…」


「ガハハハッ、さすがにこの岩丸ごと持っていくなんて考えてねぇから安心しな。ダルベ、おれの道具袋からアレ出してくれ。」


「オヤジ、何本?」


「この大きさだから、4本出してくれるか。上に登ったら縄投げるからそこに結んでくれ。」


 そう言うと、10mぐらいほぼまっすぐに切り立った岩肌をヒョイヒョイと登っていく。登りきると上から縄を投げ落としてきた。

 ダルベさんが麻袋に巨大な画鋲みたいなものを4つ入れ、黒い籠手ガントレットと一緒に結び付ける。


「みんな! 林の方に移動してくれるか? そこだと万が一がある。」


 籠手ガントレットを手にはめたガースさんが上から大声で話しかけてきた。


「ソーヤ、こっちじゃ。面白いものが見れるからのぅ。」


 トーラたちと一緒にに移動した。

 岩の上を見ると、ガースさんが片膝をついて祈るような格好をしている。


「始めるようじゃの。」


 麻袋から巨大な画鋲を取り出して置くと、おもむろに黒い籠手ガントレット付けた右手で殴りつける…


 ドゴォォォーン!


 右手を振り下ろした瞬間に凄まじい音が響く。


 ちょっとぉ! どう考えても、岩を殴っただけで出るような音じゃないよ!!!

 トーラとシーマはあまりの音の大きさに驚き尻尾を股の間に…


 ガースさんは少し移動して、また同じ様な体勢から…


 ドゴォォォーン!


「4発いらなかったなぁ! 次で行くぞ気を付けてくれ!」


 声をかけてくると、岩の上でまた右手を振り下ろす。


 ズゴゴォォォーン! ピシッ! ピシッ!ピシッ!


 岩の上から下までひび割れが走り、ゆっくりと岩が傾きだす。そのまま地響きと共に割れた岩が倒れる。

 それでもまだかなりデカい。幅5m×長さ10m×厚さ2m。


 気が付くとガースさんはすでに大岩の上から降りて巨大な画鋲を拾い集める、おれの視線に気が付くと。


「もう少し小さく割るから安心しろ。」


 いや、そう言う事じゃないんだけど… 割れた岩の上に乗りしばらく表面を調べ、おもむろに再び巨大な画鋲を置くと


 バゴン!


 巨大な画鋲を殴りつけ岩に打ち込む。数回同じことを繰り返すと巨岩が石の50cmほどの厚さ平板に。

 ガースさんがいろいろと調べて指示した岩を3つほどマジックバックに収納して戻ることになった。

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